品種・苗のご紹介

ロサ ムルティフローラ - 房咲き性の親となった日本の野ばら

ロサ ムルティフローラ – 房咲き性の親となった日本の野ばら

今回ご紹介させていただきます品種は、日本にも自生している代表的な原種「ロサ ムルティフローラ」です。

ロサ ムルティフローラ のページ

沖縄県以外の日本全域に自生している、日本人にとってはもっともメジャーな原種ばらと言えるでしょう。野山等でも見かけるほど日本人によっては馴染みのある品種でご存知の方も多いでしょうが、ばらの歴史において非常に重要な役割をもった原種です。

日本では「野ばら」「ノイバラ」などと一般的に呼ばれます。学術名は「ロサ ムルティフローラ 【 Rosa multiflora 】」、「multiflora」はラテン語で「多くの花(多花種)」という意味を持っています。万葉集では「棘原(うばら)」や「宇万良(うまら)」などの名前で記録が残っています。

自生種はトゲがありますが、亜種も多くトゲの少ない野ばらもあります。それらを選抜したものが、現在多く出回っている「棘なし野ばら」です。当園で扱いのある野ばらも同じくトゲのない選抜種です。

ばらの増殖方法として「接ぎ木」がありますが、日本では台木としてこの「棘なし野ばら」を一般的に利用しています。トゲの無いすらりとした枝はスタンダードの台木にも利用され、日本のばら苗生産の根底を担っています。

ロサ ムルティフローラ

品種としての特徴ですが、「棘なし野ばら」であればもちろんトゲはありません。一季咲きで少し遅咲き、花は小さな白一重花で房になって咲きます。樹勢もよく、よく茂り、4mほどまで伸びます。一季咲きのため枝はしなやかで節もなく誘引の自由度は高い品種です。秋になると安定して赤い実を付け、古くから「営実(えいじつ)」という名の漢方として使われてきました。

自然樹形で育てるとドーム状になります。日本の自生種だけあって耐寒性や耐病性も強い方で育てやすい品種です。

原種ながら園芸品種としても非常に優れています。トゲの無いしなやかな枝はどのような場所にも誘引しやすく、抜群の花付きで周囲を圧倒させます。また、小さいな白一重の花は別の品種との相性もよく、お庭を彩る上で表現の可能性をぐんと広げることができます。葉の茂りもよいので寂しい印象もなくなるでしょう。病気にもかかりにくく、樹勢がよいので非常に育てやすいのも評価ポイントです。(寒冷地では春先ベト病に注意が必要です。)

実付きも大変よく、秋になればたわわに実った実を楽しむことができます。

ロサ ムルティフローラ の実

この「ロサ ムルティフローラ」ですが、台木としての重要性だけでなく、ばらの歴史上でも非常に重要な原種です。

ヨーロッパで広く知られていた多くのオールドローズには、実はムルティフローラほどの房咲きになる品種は少なく貴重な存在でした。

19世紀初頭にはアジアからヨーロッパへと「ロサ ムルティフローラ」が伝えられました。溢れんばかりに花を付ける「房咲き性」は積極的に取り入れられ、新しいばらたちを生み出しました。

フランスのギヨーは、庚申ばらの矮小種(ロサ キネンシス ミニマ)とロサ ムルティフローラを交配させることで、小輪房咲きの四季咲き木立種「ポリアンサ ローズ」を誕生させました。さらにデンマークの育種家ポールセンは、ポリアンサローズを改良して「フロリバンダ ローズ」を作り出しました。

四季咲き種だけでなく、その他のつる性の品種たちにも取り入れられ房咲き性を獲得していきました。特に「ランブラー ローズ」にはロサ ムルティフローラ由来の品種も多くあり、現在でも庭園素材として活躍しています。

今日に多く見られる房咲き性の由来はこの「ノイバラ」にあります。ばらの房咲き性の親として、現在のばら生産の台木として、庭園素材として。メジャーでありながら「ロサ ムルティフローラ」は現在でも無くてはならない存在です。

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