当園のカタログ冊子の読み方
当園が発行しております「ローズカタログ」は、保有品種を多く掲載できるよう「図鑑形式」で編集しています。
特に、伝統ある品種を多く保有している当園では「ばらの歴史」も重要視しており、「ローズカタログ」にはこれら「ばら史」と言える部分も感じられるよう、編集をしております。
ここでは、ただの品種解説だけではない、カタログ冊子の「ギミック」をご紹介いたします。
系統別に品種を掲載
ばらには、その品種の成り立ちを考慮した「系統」によって大まかに分類されています。
例えば、赤ばらの祖として重要な「ガリカローズ」は、赤~赤紫色の色彩を持った品種が多く、「一季咲き」で「細枝性」「葉の光沢が少ない」「ダマスク系の芳醇な香り」などが概ね共通した特徴として見られます。
「アルバローズ」は逆に白の色彩を持った品種が多く、「灰色がかった葉」や「直立気味な樹形」「レモン香に代表される爽やかな香り」などが系統の傾向として見られます。
近代化された「ハイブリッドムスクローズ」はつる性かつ返り咲き性を持ち枝質も丈夫な品種が多く、「ハイブリッドティーローズ」は完全四季咲きで大輪の花を咲かせるなど、各系統ごとに特色が見られます。
このように、その品種がどの「系統」に属しているかによって、ある程度品種の特徴を推測することができます。品種選びにおいて大変心強い指標となりますので、当園ではWeb上、カタログ冊子ともに各品種を「系統別」に分類しております。
成り立ちが古い系統順に掲載
一部デザイン上の都合で順番を変えた系統がありますが、概ね「成り立ちが古い系統順」で掲載しております。
まず、大まかに「オールドローズ」「原種・原種系交雑種」「典型的なつるばら」「四季咲き木立ばら」で分けています。
一部例外的な品種はありますが、前半の「オールドローズ」「原種・原種系交雑種」「典型的なつるばら」が「つる性品種」、後半の「四季咲き木立ばら」が「四季咲き木立性品種」となります。
この大きな分類の中で、成り立ちが古い系統から順番にご紹介しています。具体的には、下記の順番でご紹介しています。
※本来、歴史的には「ハイブリッドティー」は「フロリバンダ」より早く誕生していますが、「ハイブリッドティー」の品種数が膨大であるため、デザイン上の都合から最後に掲載しています。
<<オールドローズ>>
- ガリカ
- アルバ
- ダマスク
- ケンティフォリア
- モス
- ポートランド
- ブールソール
- ブルボン
- ノアゼット
- ハイブリッドムスク
- ハイブリッドパーペチュアル
<<原種・原種系交雑種>>
- ハイブリッドルゴサ
- 原種
- ハイブリッドフェティダ
- ハイブリッドスピノシシマ
- ハイブリッドエグランテリア
<<典型的なつるばら>>
- シュラブ ※HP種の後に掲載
- ランブラー
- クライミング
<<四季咲き木立ばら>>
- チャイナ
- ティー
- ポリアンサ
- ミニチュア
- フロリバンダ
- ハイブリッドティー
- グランディフローラ
厳密に歴史順にする場合は「原種」から始めるべきですが、流石にマニアックなデザインとなるため、最初は当園のメイン商品たちである「オールドローズ」から始めさせていただきました。
オールドローズ最古の系統で、赤ばら・白ばらの祖と言われている「ガリカ」「アルバ」から始め、派生系統である「ダマスク」「ケンティフォリア」、東洋の庚申ばらが導入され近代化した「ポートランド」「ブルボン」以降、といった順番です。
「四季咲き木立ばら」は、四季咲き性の祖である「チャイナ」「ティー」から始め、それらとノイバラの交配種である「ポリアンサ」、矮性庚申ばらの交配種である「ミニチュア」、ポリアンサ派生系統の「フロリバンダ」、そして人類の悲願であった「四季咲き大輪種」である「ハイブリッドティー」と続きます。
「ハイブリッドルゴサ」が「原種」より先のご紹介となっているのは、原種系品種の中でもハイブリッドルゴサは現存している品種数が多く、また庭園素材としても使いやすい品種が多いため先にご紹介しています。
ばらの歴史が、その性質がどのように進化していったのか、系統を追って確認できるよう編集しております。そして、実際にその品種を入手できるよう生産・販売をしていることが当園の大きな特徴になります。
庚申ばらの影響を強く受けた系統の境目を意識したオールドローズの「クラシック」「モダン」
カタログでは「帯の色」にも意味を持たせています。
特に「オールドローズ」では、帯の色の変化位置に大きな意味を持たせています。具体的には「ポートランド」「ブールソール」系統から帯の色が変わるように編集しています。
これは「東洋の庚申ばらの影響」の境目を意識したものです。
庚申ばらの影響が少ないより古代のオールドローズを「オールドクラシック」、庚申ばらの影響を強く受けたオールドローズを「オールドモダン」と当園では呼称しています。
帯の色が変わる「ポートランド」「ブールソール」からは、東洋からもたらされた「庚申ばら(チャイナ、ティー系統)」との交配が進んだことでその影響を強く受け始めており、それ以前のオールドローズから大きく性質が変化しています。
具体的には「返り咲き性」を持ち始め、春以降にも花が見られるようになりました。その返り咲き頻度も時代が進むにつれて徐々に高くなっていきます。また、葉には庚申ばら由来の「細長く少し光沢がある葉」が顕在化し始め、トゲも繊毛のような細長いものではなく逆三角形の鋭いトゲが見られるようになり、枝は太くがっしりとしたつるばららしい主幹を持つようになります。
ばらの歴史において、「庚申ばら」との交配が始まったことは非常に大きな出来事であり、従来の品種たちと比べても大きくその性質を変えていきます。庭園素材としての生かし方もここから変化していくため、帯の色を変化させることで「その系統は庚申ばらの影響が強くでているかどうか」という境目を明確にしています。
<<オールドクラシック>>
- ガリカ
- アルバ
- ダマスク
- ケンティフォリア
- モス
庚申ばらの影響が少ない古代のオールドローズ。一部例外を除きほどんどが春のみの開花である「一季咲き」品種ですが、代わりに枝がしなやかな品種が多い。また葉にはあまり光沢がなくより原始的な印象。トゲも針のような細長いものが多く、主幹も比較的細い品種が多い。
<<オールドモダン>>
- ポートランド
- ブールソール
- ブルボン
- ノアゼット
- ハイブリッドムスク
- ハイブリッドパーペチュアル
庚申ばらの影響を強く受け始めたオールドローズ。春以降にも開花する「返り咲き」を持ち始め、葉も細長く少し光沢が見られるようになります。トゲは逆三角形の鋭い形になってきますが、細かい繊毛のようなトゲは無くなり、トゲの無い部分はすらっとしています。つるばららしい伸長力や樹形を持った品種が多くなりはじめ、より多様性が増します。
ハイブリッドティーは「作出順」で掲載
特に品種数が多く、多様性に満ちた四季咲き大輪種である「ハイブリッドティー」。
多くの育種家が情熱を持って作り出した芸術品ともいえる系統。特に当園ではハイブリッドティー最初期の品種から黎明期、最盛期、現代に至るまでの品種を多く保有しており、貴重なコレクションとなっております。
「1867年」「フランス」「ギヨー」により誕生した「ラフランス」から始まったハイブリッドティーは、プロ・アマに限らず世界各国の育種家により多種多様な品種が作出されました。
特に「作出国」や「作出者」の違いによる「求める品種の理念」が色濃く見られ、「作出年」によっては当時の流行なども感じ取れます。また、交配史上ターニングポイントとなった品種の前後では、花色や花型などの性質に大きな違いがでてくるなど変化が激しく、ハイブリッドティーの歴史はばら史の中でも激動の時期だったといえます。
そんなハイブリッドティーの歴史を感じ取っていただきたく、当園のカタログ冊子ではハイブリッドティーに限り「作出年順」で掲載しています。追加情報として「作出国」「作出者」も掲載しています。また、ページのトップはコラムページとして作出者の違いによる品種の傾向や、当園のおすすめ品種などもお話しています。
作出国による違い
ばらにもやはり「お国柄」というものがでてくるようで、作出された国の違いも注目ポイントです。
「フランス」の品種は品位と優雅さをあわせ持った品種が多く、「イギリス」の品種は格式高い端正な姿が見られ、「ドイツ」の品種は厳格でがっしりした丈夫な品種が多く見られます。「日本」の参戦は少し後になりますが、高温多湿な環境に耐えるべく丈夫で株姿が整い、花付きに優れたバランスのよい品種が高い評価を得ています。
作出者による違い
特に「作出者」によって異なる「求める品種の性質・理念」の違いは興味深い視点です。
フランス「Meilland氏」による品種は、繊細な枝振りに上品な花の相性が大変魅力的で、またFrancis Meilland氏による「ピース」や、複雑な色彩の「マダムデュドンネ」など意欲作も多く、多種多様な品種を作出しています。
ドイツ「Kordes氏」の品種は、寒いドイツの気候に耐えられる強健な枝と荘厳な大輪花が多く見られ、特に自身で「完璧」の名を与えた「コルデスパーフェクタ」はその代表的な品種と言えます。
アメリカ「Swim氏」の品種は、全体的に細枝性で風にたなびくやわらなか印象がありながら、素晴らしい花付きと大輪花で魅了する優秀な性質を多く持った品種を多数作出し、特に「ロイヤルハイネス」は現代でも比類無い名花として人気があります。
他にも多くの作出家が存在し、それぞれ自身の性格のようなものが品種にも反映されています。作出者別に品種を集めてみるのも面白い試みかと思います。
作出年による違い
いくつかターニングポイントに当たる品種があり、その品種が作出される前後で性質が異なっていることがあります。またその時代の流行などもあり、時代によって求められていた性質が異なっていることも垣間見えます。
ハイブリッドティー最初期の品種は、交配親であったティーローズの影響がまだ残っている枝振りをしており、また意外にも強健種が揃っています。「1912年」に「オフェリア」が作出されると「剣弁高芯の花型」が確立され、以降芯の高い品種が多く見られるようになります。
「1920年」にはハイブリッドティー初の黄ばらである「スヴニールドゥクロージュペルネ」が作出され、以降の品種からは黄色やオレンジ、複色花などより花色が多様になっていることがわかります。
「1935年」の「クリムソングローリー」では初めて「ビロード調の深紅色」が誕生、同年「ピース」はその巨大輪花が評価されます。1950年代~60年代はハイブリッドティー黄金期といえ、「ホワイトクリスマス」「グレースドモナコ」「ロイヤルハイネス」「パパメイヤン」「ブルームーン」など、現代もで人気が高い品種が目白押しの時代です。
1970年以降はコンテストが人気となり、ステムが長く花持ちに優れた品種が多く見られるようになります。また、枝質が丈夫になり強健種が増えてきて育てやすい品種が多くなっていきますが、逆に繊細な細枝性の品種が少なくなり、一般大衆向けとしてばらの普及を目指した年代とみることもできます。
ハイブリッドティーの歴史を順に辿ることができるのは当園のカタログの大きな特徴です。品種の解説だけでなく資料としてもご参考にしていただければと思います。