カメラコラム

ピントを合わせられる距離「最短撮影距離」を把握しておこう

ピントを合わせられる距離「最短撮影距離」を把握しておこう

カメラのレンズというのは、どんな距離からもピントを合わせられるわけではなく、実はピントを合わせられる距離というものが存在しています。

ピントを合わせたい被写体からカメラまでの距離のうち、ピントを合わせられる最短距離のことを「最短撮影距離」と呼んでいます。この最短撮影距離はレンズによって性能差があり、かなり近づいて撮影できるレンズから、あまり近づきすぎるとピントを合わせられないレンズもあります。

そのレンズの最短撮影距離より近づいて撮影してしまうと、どうやってもピントを合わせることができず「ピンぼけ」が発生してしまい、折角の写真がぼやけてしまう原因になってしまうので、レンズの最短撮影距離は事前に確認しておくとよいでしょう。

レンズによって最短撮影距離は異なる

レンズによって「どれだけ近づいてピントを合わせられるか」という「最短撮影距離」は異なっています。カメラ本体の性能にはあまり関係がなく、あくまで最短撮影距離はレンズの性能の一部になります。

最短撮影距離はレンズの性能表に書かれていて、例えば「RF24-105mm F4-7.1 IS STM」というレンズであれば・・・

  • 最短撮影距離 : AF時:0.2m(24mm時)、MF時:0.13m(24mm時)

といった感じで公式サイトに記載がされています。

広角端である「焦点距離24mm」のときに最短撮影距離が「0.2m(20㎝)」となっています。つまり、広角端時に被写体から0.2mの距離まで近づいてもピントを合わせることができるレンズです。また、このレンズはマニュアルフォーカス(MF)時ではさらに近くまで寄って撮影できる「Center Focus Macro」という機能も搭載されていて、この場合ピント合わせは手動になりますが「0.13m」まで寄って撮影できます。

逆に、そのレンズの最短撮影距離より被写体に近づいてしまうと、AF(オートフォーカス)が迷いっぱなしでピントをしっかり合わせることができず、「ピンぼけ」を起こしてぼやけた写真になっていまいます。

Canon RF 24-105mm F4 L IS USM の最短撮影距離は「0.45m」なので、45㎝までならピントが合います。
Canon RF 24-105mm F4 L IS USM の最短撮影距離「0.45m」より近づいた場合、ピントが合わせられずピンぼけしています。

レンズ本体に記載されている場合

最短撮影距離はレンズ本体にも記載されている場合があります。

例えば、先ほどの「RF24-105mm F4-7.1 IS STM」というレンズであれば側面に記載があります。

RF24-105mm F4-7.1 IS STM のレンズ側面。最短撮影距離が記載されています。

この場合は「W」と書かれた距離が「ワイド端」、つまり広角端の最短撮影距離で「0.2m」となっています。「T」と書かれた距離が「テレ端」、つまり望遠端の最短撮影距離で「0.34m」となっています。

  • 広角端「焦点距離24mm」時に最短撮影距離「0.2m」
  • 望遠端「焦点距離105mm」時に最短撮影距離「0.34m」

このようなレンズ性能であると書かれています。

撮影距離は「センサーから被写体まで」の距離

これら最短撮影距離ですが、どの部分からの距離かというと、「カメラ内のイメージセンサー」から「被写体」までの距離になります。勘違いしやすいところですが、レンズ先端からではありません。

このセンサーの位置ですが、特に「レンズ交換式カメラ」の場合は、外部からも「ここにセンサーがあるよ」と分かるよう「目印」がカメラ本体にかかれています。

大体はカメラの上部に、以下の画像のよう印がかかれています。

カメラのセンサーの位置がわかるよう、このような印がかかれています。

この印は「フィルム面マーク」や「撮像面マーク」「距離基準マーク」など色々と呼び名があるのですが、この位置にカメラの撮像素子があることを意味しています。このマークから被写体までの距離が「撮影距離」になり、その中で最も近づける距離が「最短撮影距離」になります。

イメージセンサーから被写体(ピントを合わせる点)までの距離が撮影距離。レンズ先端からではないので注意。(レンズ先端から被写体までの距離は「ワーキングディスタンス」と呼びます。)

値段の高いレンズだからといって寄れるとは限らない

最短撮影距離はレンズ性能のひとつではありますが、では値段の高いレンズはより寄れることができるのでしょうか。

確認するため、ここで私が所持しているレンズの最短撮影距離を確認してみます。

RF24-105mm F4-7.1 IS STM

RFマウントを採用したカメラのキットレンズですが、最短撮影距離は広角端で「0.2m」、望遠端で「0.34m」となっています。お値段は記事執筆時で約6万円前後です。

RF24-105mm F4 L IS USM

上記のレンズと焦点域は同じですが、F4通しで使える「通しレンズ」です。最短撮影距離は全域で「0.45m」となっています。お値段は15万円前後です。

RF50mm F1.8 STM

低価格帯の標準単焦点レンズ。いわゆる「撒き餌レンズ」と呼ばれているものです。最短撮影距離は「0.3m」となってます。価格は2.5万円前後です。

RF50mm F1.2 L USM

高価格帯の標準単焦点レンズ。大口径で大きく重い。でも写りは最高品質です。最短撮影距離は「0.4m」となってます。価格は30万円前後です。

同じ焦点域のズームレンズと単焦点レンズとを比べてみましたが、上記の通り値段が高いレンズの方が近接性能が悪いことがわかりました。価格が高い割にあまり寄れませんね。

このように、最短撮影距離は別に値段が高いレンズの方が必ずしも良いとは限らず、むしろ安価なレンズの方がより寄って撮影できる商品も多いことがわかります。今使っているレンズや、特にこれから購入しようと考えているレンズの最短撮影距離は事前に確認しておきましょう。

ちなみに、接近性能に関して言うと、「スマートフォン」に搭載のレンズは最短撮影距離が短いものが多く、実は一眼カメラのレンズより寄れる機種が多いです。このため、スマートフォンでの撮影に慣れていると、いざ一眼カメラなどで撮影したときに被写体に寄りすぎてピントが合わせられない、ということが起きやすいので注意しましょう。

近接性能に特化した「マクロレンズ」

レンズの中で、特に近接性能に優れたレンズを「マクロレンズ」と呼びます。

「撮影倍率」が高いレンズの総称で、被写体を画面いっぱいに大きく写し取る能力に優れたレンズです。合わせて最短撮影距離も短いレンズが多く、より被写体に接近して撮影することができます。

もし被写体を大きく写し取りたい場合は、このマクロ機能を謳っているレンズを選んでみられるとよいでしょう。マクロレンズだからといって必ず近づいて撮影しなくてはいけない、ということはなく、通常の撮影にも十分利用できますので、万能なレンズとして大変使いやすいレンズになっています。

最短撮影距離より手前のものは「前ボケ」として利用しよう

その写真のメインとなる被写体に対しては、しっかりピントを合わせられるよう、最短撮影距離以上の距離をとって撮影するのが基本ですが、何もすべての要素を離す必要はありません。

ピントを合わせた被写体より手前にあるものはピントが合っていないのでボケて写ります。これを「前ボケ(まえぼけ)」と呼びますが、メインとなる被写体にピントを合わせながら、手前のものはボケさせることでふんわりとした印象を表現しつつ、より被写体を引き立たせることができるようになります。

白つつじ。手前の花は「前ボケ」として入れることで、写真全体がやわらかな印象になりました。この前ボケは最短撮影距離より手前側に置いて作ることもできます。
霧ヶ峰高原のコバイケイソウ。前ボケと奥の小屋の対比を狙っています。

最短撮影距離はピントが合う距離として覚えておく必要はありますが、そればかり気にしすぎると自由な表現ができなくなってしまいます。表現として「こうしなくてはいけない」ということは全くありませんので、柔軟に、自由に構図を考えてみてください。

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