ばら(薔薇)の成長形態は、大別すると「つる(蔓)」と「四季咲き木立」の2つに分けられます。
このページでは『四季咲き木立ばら』について、その性質と種類についてお話します。
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つるばらの種類 – つる状に伸びるばらの性質と系統四季咲きばらとは?
まず『四季咲き』とはどういった性質のものを指すのでしょうか。
ここを勘違いすると折角のお庭に違和感がでてきたり、ばらの扱いに困ったりすることになります。
お庭への使い方、違和感を生むこと無く自然に溶け込むような演出、人とのコミュニケーションを可能にする。特に「四季咲きばら」は人に依存しなければ良好な生育が望めません。ばらにとって最もよい結果を得るために「四季咲き」とは何かを考えます。
「四季咲きばら」とは、生育期間中にある一定の気温以上であれば伸長した枝先に必ず開花が起こる性質を言います。「一定の気温」とは、一般的に夜温15度以上と言われています。ばらは基本的には落葉低木植物なので、日本の気候では冬になると落葉して休眠し、開花はしません。ですが、四季咲きばらの場合は、冬の間でも加温させることにより安定して開花を得ることができます。
一定以上の温度が維持できれば本当に「四季咲き」です。樹(木本)としての性質を持ちながら、四季を通して開花を得られる、他の植物と比較してもかなり珍しい性質です。
一季咲きのつる性品種は、一度冬で気温が下がり休眠打破させないと春の開花をうまく得ることができません。芽や枝に対してある程度の寒さを当てる必要があります。特に沖縄県では一季咲きの品種が開花しにくいようです。沖縄県では、返り咲きに優れたつる性品種を使うか、四季咲き木立品種を使うとお花を楽しめるかと思います。
剪定により開花を調整できる
また、剪定を施すことにより開花時期を調整できる品種でもあります。剪定をしてから何日後に開花するかを計算できる特性を持っています。品種により遅咲き、早咲きの違いはあるにしても「何十日後に開花が得られるか」、これが分かるのが四季咲き品種です。
▲すべてのシュートに花をつける
栄養状態がよければシュートを発生させ、そのシュートすべてに今年花を付ける能力を持っています。株元から発生するベーサルシュートであれば、ほぼ確実に開花します。
シュートの開花位置、つまり出てきたシュートが開花するまでに至る枝の長さが短いため、これで四季咲きであるかどうかを判断できます。でてきたシュートが2m伸びたところで開花、ということは起こらず、概ね 40㎝ から長くて 1m ほど伸長したら蕾を持ちます。
開花により枝の伸長が阻害されるため枝が長く伸びない
枝が伸びるのを妨害する一番の要因は「開花」です。蕾を枝先に持つことで枝の伸長が一度止まります。
このため「四季咲きばら」は、枝の伸長が開花によりその都度阻害されることになり、つるばらと比べ枝を長く伸ばすことができません。従って、「四季咲きばら」は人の背丈以上の長さに伸びることはほとんどなく、多くの品種でおよそ1.5m、一部成長力が強い「クイーン エリザベス」や「ヘレン トローベル」などの品種で2mを超す樹高を持つに至る程度です。
つるばらのように枝が大きく弧を描くように伸びたりせず、逆さボウキのようなごつごつとした樹形になるのも「四季咲きばら」の特徴です。開花したら花ガラ切り、凋花切などにより枝先を切りますので、節が多くでき早期に自立します。
上の画像の左が四季咲き木立ばら「ゴールドバニー」です。何度も開花することで節ができており、樹高が低く、全体的にがっしりたゴツゴツの株立です。
右が繰り返し咲きつる性ばら「ブラッシュノアゼット」です。秋にも安定して返り咲く品種のため四季咲き品種として販売されていることも多いのですが、上記に挙げたような厳密な四季咲き性は持っていないため、全体的に枝が伸長しつる状の樹形になっています。蕾を持つまで長く伸びた枝があることも確認できます。このため、「ブラッシュノアゼット」は「つる性」として扱うことが基本になります。
枝の伸長力は強くても、何度も開花するため枝が極端に伸びてこないのが四季咲きばらです。開花は剪定によりコントロールできるので、花壇では最も扱いやすい性質となります。
開花はばらにとって最も体力を使う行為の1つであるため、日照条件がよい場所へ植栽することが求められます。最低でも直射日光が2~3時間、理想は5~6時間欲しいところです。特に大輪系のばらは日光が必要です。
四季咲きつるばらは存在しない
これらを「四季咲き」と定義する場合、つるばらには四季咲き品種は存在しないことになります。
つるばらと比較したとき、四季咲き品種との大きな差は「開花しない枝が存在する」ことです。開花、つまり何度も生殖生長に入るために枝が伸びないものが四季咲き品種。つるばらは冬以外では剪定による開花調整はできません。四季咲き性がないからこそ枝を伸ばすことができるのです。
このことから「四季咲き性つるばら」という呼称に矛盾が生じてきます。相反する2つの形質が同居することはありません。四季咲き性がないから枝が伸びる、つるばらとしての管理と演出が求められる中に、四季咲きばらに行う管理を適用すると違和感を生む原因となります。
四季咲き品種はシュートピンチをしないと枝が伸びにくい特性があります。繰り返し咲くつるばらは、長く伸び先端に房咲き状に開花します。これにより管理方法もお庭への活かし方も異なってきます。つる性ばらに外壁面を任せ、つるばらでは開花が得られにくい足元を四季咲き品種で補う。互いが完璧でないからこそ、欠点を打ち消すように組み合わせます。
▲繰り返し咲くつるばら「フェリシア」。四季咲きではないのでつるばらとして扱う。
▲つる性ばらは株本の開花が少なくなりがち。四季咲き木立ばらや下草などでカバーできる。(写真手前はクロチルドスーペル)
「つる性」と「四季咲き性」の混同を避けるため、当園では「四季咲き性つるばら」という表記は一切しておりません。返り咲きが秋まであるつる性品種の場合は「繰り返し咲き」と表記しています。Web上、カタログともに徹底しております。このことから、「四季咲き」と表記した品種は四季咲き木立ばらとして管理し、「一季咲き」「返り咲き」「繰り返し咲き」と表記した品種はつるばらとして扱うことがひと目で分かります。
よく返り咲く品種、例えばショートクライマーとして人気の返り咲きするシュラブローズは、一見四季咲きばらと混同されがちです。しかし、枝は弧を描くように伸びていきますので、「四季咲き木立ばら」ではなく「つるばら」としての管理と演出を心がけます。シュラブローズはすべてつるばらとして扱うのです。「四季咲き性」と「つる性」を混同するとこのようなところで管理や演出方法の迷いがでてしまいます。
夏剪定は四季咲き品種であることが前提
また、秋の開花を調整する目的で9月1日前後に実施する「夏剪定」も、四季咲きばらであることが前提の管理方法です。「剪定してから何日後に開花するか」を計算できるからこそ調整できます。9月1日を基準として、遅咲き品種で8月25日頃、早咲き品種で9月5日頃の夏剪定で開花を調整できます。花持ちや色、香りの観点から秋の開花適期と言える10月の中旬過ぎの開花を目指します。
従って、夏剪定は四季咲き性を持たない「つる性ばら」に対して実施する必要はありません。返り咲きの多いシュラブローズも同様で、夏剪定を実施する意味合いは薄いといえます。剪定しても開花を調整できないので、開花の度に花ガラきりを行い、そのまま枝を伸ばして風景を作りだすための素材にします。
夏剪定は平地や暖地で有効な手法です。寒冷地や冷涼な高地では全体を通して気温が低く、特に秋ころの気温低下が著しいため、夏剪定は行わずに花ガラ切りを継続して行います。これで秋ころに十分な開花を得られます。
四季咲きばらの系統
ばらには『系統』と呼ばれる分類があります。
その品種の成り立ちや性質などを考慮して分類されているので、品種選びの際には大変役に立ちます。
以下に挙げる系統は、一部の例外を除いて「四季咲き木立ばら」として扱う品種群です。 樹形に差はあるものの、四季咲きという性質を持っているので一年を通して開花が見られます。四季咲きという性質に合った管理を心がけたいところです。
チャイナ – China
中国の「ロサ キネンシス」を起源とした一群の品種です。ロサ キネンシスは完全な四季咲き性を持ち、その性質ゆえにヨーロッパで様々な交配が試みられ、 モダンローズの誕生に多大な貢献をしています。現在では当たり前の「四季咲き」という性質ですが、その起源の1つはこのチャイナローズにあると言われています。
ばらの歴史上、大変重要な系統群となります。
花色は淡いピンクから濃い赤まで様々で、香りの強弱にも幅があります。ほとんどが四季咲き木立性品種ですが、「キャメリアローズ」などつる性の品種も数は少ないですが含まれています。また、枝が細くしなやかなものは、弱剪定により枝をつる状に伸ばすことも可能でアーチ等に利用できます。
ティー – Tea
庚申ばらの仲間である「ヒュームズ ブラッシュ ティーセンティドチャイナ」と、つる性で淡い黄色の色素を持つ「パークス イエロー ティー センティド チャイナ」を起源とする品種群です。チャイナ・ローズと極めて近い関係にあり、花容や株姿は一般的にチャイナローズより大型で、クリーム色や淡いサーモンピンクなど、黄色味の感じられる色調が多いこと、多くは枝に赤みがさすことが特徴です。こちらもチャイナ・ローズ同様、ばらの世界に「四季咲き」を伝えたとされる重要な系統です。
多くは系統名の由来といわれる紅茶のような、甘い独特の香りを持ち、花付きが良く、優美な花容で人気の高い系統です。しなやかな枝の線は草花とのなじみも良く花壇植栽にも適します。四季咲きながらつる状に仕立てられるものも存在します。「グロワールドディジョン」など少数ですがつる性を示すティーローズがあります。(つる性なので四季咲き性はありません)
ハイブリッド ティー – Hybrid Tea
つる性のばらがほとんどであった西洋のばらに、四季咲き性の「ティー・ローズ」をかけあわせ誕生しました。人類が追い求めてきた完全四季咲きの強健な大輪花品種群です。19世紀半ば、フランスのギヨーの畑で偶然発見されたばら「ラ フランス」は大輪で四季咲きでした。ラ フランスを第一号品種として、ハイブリッドティー・ローズは今でもばら育種家の情熱をもって作出されています。
多くの育種家が、夢と情熱を持ってこの交配に挑戦し、個性豊かな品種が次々と発表されました。巨大輪花の先駆的品種である「ピース」は、ばら好きであれば誰もが知る歴史的名花です。
すべて四季咲きの品種群でつる性のものはありません。枝変わりを起こしてつる化したものは「クライミング・ローズ」に分類されます。つる化することで四季咲き性は失われます。当園では、ハイブリッドティー・ローズの歩んできた歴史も重要視し、古花銘花を中心に取り揃えております。
ポリアンサ – Polyantha
ポリアンサとは「たくさんの花」を意味し、その系統名どおりに大変花付きが良く、多くは四季咲き木立性となります。日本の野ばら(ロサ ムルテフローラ)を四季咲き品種に取り込んだ系統です。色幅や花型の変化が少ないことから一時は栽培が少なくなりましたが、多くは耐寒性に優れ、花壇用品種としての優れた特性が見直される傾向にあります。丈夫で育てやすく、いつも咲いてくれるばらが何か身近に欲しいな・・・と思われるときにも、良きパートナーとなってくれることと思います。
「オルレアン ローズ」はのちにフロリバンダ・ローズを誕生させ、ティー・ローズとの交配で誕生した「セシル ブルンネ」や「ペルル ドール」などは、その優雅な雰囲気で現在まで根強い人気を保っています。
フロリバンダ – Floribunda
「フロリバンダ」とはアメリカで名付けられた系統名で「花束」を意味しています。ハイブリッドティ・ローズと花付き、耐寒性の良いポリアンサ・ローズの交配により誕生し、四季咲き中輪種と呼ばれることもあります。ハイブリッドティー・ローズからはバリエーション豊かな花色や香り、ポリアンサ・ローズからは房咲き性とコンパクトな樹形、そして強い耐寒性もいくらか受け継いでいます。
最初の品種はデンマークのポールセンによる1924年作出のエリゼ・ポールセンといわれ、その後ドイツのコルデスによる「ピノキオ」(原名ローゼン・メルヘン)はそれまでにない花付きと株姿の良さで大いに注目され、フロリバンダの典型的なスタイルを築いた品種として知られています。その後さらに交配が繰り返され、現在では公園で、ご家庭でその花付きの良さと強健さでなくてはならない存在となっています。
ミニチュア – Miniature
四季咲きばらすべての親であるロサ・キネンシスのうち、ロサ・キネンシス・ミニマという特に小さい原種を交配親として発展した品種群です。19世紀前半から「ルーレッティ」という名前で知られていたものの、一度行方がわからなくなってしまったため、実際に交配されるようになったのは再発見された20世紀に入ってからです。
現在ではフロリバンダ種との交配によりかなり花径の大きなものも出回っていますが、当方では古典的な、小さめの品種を中心に保有しております。小さいだけに四季咲き性はあらゆるばらの中でももっとも強く、温度さえあれば初冬でも咲いています。花ガラ切りを適宜行うことで常に花壇を彩ることができます。一部、つる性を示すミニチュアがあります。
グランディフローラ – Grandiflora
ハイブリッドティー・ローズとフロリバンダ・ローズの交配によりアメリカで誕生した系統で、最初の品種は1954年のクイーン・エリザベスとされています。両系統の長所を取り入れるのが目的ですから、大輪ながらもに花付きに優れ、樹勢も強健なものが多く見られます。ただ、従来のハイブリッドティ・ローズとの区別が付きづらいことからこの系統を認めていない国も少なくありません。
一般に樹高は高く強健、花付きは良いので切り花などにも好適です。特に1970年に作出された「ソニア」は切り花用品種として一世を風靡しました。