【10月号】現代ばら発展の礎となったマザー・ローズたち

【10月号】現代ばら発展の礎となったマザー・ローズたち

先月は多くのバラの中でも特に愛されている「赤いバラ」に焦点をあててみました。今月は現代バラの礎となったその他の魅力的な品種をご紹介したいと思います。

数あるバラの中でも多くの子孫を生み出すもととなった品種は敬意を込めて「マザー・ローズ」と呼ばれます。優秀な子孫が発表されると親品種の存在は忘れられがちですが、おおもとであるマザー・ローズの歴史と風格に、今一度思いを馳せてみたいと思います。

剣弁高芯咲きの花型を確立した「オフェリア」

育種家たちによる意欲的な作品が数多く発表された1900年代前半はまさにハイブリッドティ・ローズの黄金期といえるでしょう。時代を風靡した魅力的な品種たちが数多く誕生しています。

中でも高名なのが1912年、イギリスのポールによって作出された「オフェリア」です。

現在私たちが目にする芯が高く、くるくると渦を巻く優雅な花型は、この品種によって確立されたといわれています。オフェリア自身の素晴らしさもさることながら、その高い結実性によって多くの名花を誕生させた功績はました。よく知られている品種に「ディンティ・ベス」「ジョアンナ・ヒル」「ネージュ・パルファム」などがあります。

また「オフェリア」は枝変わりを良く発生させることでも知られ、著名な品種に「マダム・バタフライ」「ラプチュア」などが存在します。それらの子孫まで含めると後生の名花のほとんどが、何らかの形で「オフェリア」の影響を受けているといわれるほどです。

「オフェリア」の交配親は明らかにされておらず、作出者ポールは「嵐の後に掃き集めた落果からの実生である」と謎めいた言葉を残しています。実際にはリヨンの魔術師といわれたペルネ・デュッセによる洋紅色のバラ「アントワーヌ・リヴォワール」の実生ではないかと推測されています。

HT種 初の黄バラ「スヴニール ドゥ クロージュペルネ」

ペルネ・デュッセの功績とその作出花については次号で取り上げたいと思いますが、1920年にハイブリッドティ・ローズ初の黄色バラ「スヴニール ドゥ クロージュペルネ」が、彼によって発表されたことはまさにバラの世界に劇的な変化をもたらしました。黄色系の色彩が加わったことによりバラの色彩は一層豊かに、彩りを増してゆくことになります。

各国の育種家により誕生したマザー・ローズたち

誰がどのようなバラを発表するか、競争の時代でもありましたから、良い品種が出来たときにはその交配親が明らかにされないこともありました。

1927年作出の「マーガレット・マグレディ」はその代表的な品種で、のちに名花「ピース」を誕生させたことで知られています。濃いピンクのおおらかな丸弁で、特筆すべきはその強健な樹勢ではないかと思います。それまでの品種はどこかはかなげな枝振りで花も俯いて咲くものが多かったのですが、この品種のしっかりとしたステムとつややかな照葉はそれまでの品種とは全く異なる趣があります。

ピース・ファミリーともよばれるたくさんの子孫たちの、まさにおおもととなった形質がこの品種に良く表されているように思えます。

作出者であるマグレディ三世は、ディクソン家やコルデス家とならぶ由緒ある育種家の家系に生まれ、他にも「ミセス・チャールズ・ランプロウ」「マグレディス・アイボリー」など、戦前を代表する優れた品種を多数発表しています。

そしてスペインやイタリアでもその時代を彩る名花たちが生み出されています。ペドロ・ドットによる「コンデサ・デ・サスタゴ」はハイブリッドティ・ローズで初めて表弁がローズ赤、裏弁が黄色というバイカラーを表現し、イタリアのアイカルディは同じく光沢のあるローズ赤に裏弁黄色の「サツルニア」を発表し、それぞれの国民性を表すかのような情熱と輝きに満ちています。

ペドロ・ドットは特に、第二次世界大戦後さらに続くスペイン国内の紛争にも翻弄され苦難の育種家として知られていますが、彼の手によるピンクのつるばら「スパニッシュ・ビューティー」は現在も愛好家の多い傑作品種として、世界中で親しまれています。

この瞬間にも世界中で、新たなばらが誕生しています。新品種は昔の品種よりはるかに強健で耐病性も高くなり、花型も優雅でどなたにとっても育てやすいという魅力があります。

表には出ずとも、マザーローズたちの遺伝子は今も途切れることなく受け継がれ、新たな喜びと感動を与えてくれていることに、心からの感謝を捧げたいと思います。

特におすすめの品種

特におすすめの品種を抜粋して、ご紹介させていただきます。

オフェリア – Ophelia

バラ好きの方なら一度は耳にしたことのある品種名かと思われます。花は小ぶりですが花付きは大変良く、極淡いピンクに弁底黄色のデリケートな色彩と「オフェリア香」と呼ばれる大変上品な芳香が魅力的です。枝数も初年度は少なめですが、作り込むごとに樹形も整います。

マーガレット マグレディ – Margaret McGredy

20年代の品種としては驚くほど強健で、しっかりとした花首とつややかな照葉をもち、その子孫ピースへと続く、現代バラの立役者として画期的な品種といえるでしょう。おおらかな丸弁と暖かみのあるサーモンを含むローズ色が美しく花付きも良好です。

コンデサ デ サスタゴ – Condesa de Sástago

表弁がローズ赤、裏弁黄色の華やかな色彩とふっくらした花型が、スペインの情熱を感じさせます。ロサ・フェティダ・ビカラーの2色咲き性が導入された初期のHTローズの一つで当時は世間を大変驚かせました。秋の花の方が発色は良く、樹勢も強健で花付き良好です。

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