可憐な花容と返り咲き性で人気のノアゼット ローズとハイブリッドムスク ローズ。それぞれ家庭用のつるばらとして現在も広く愛培されています。これらはロサ・モスカータに庚申ばら(ロサ・キネンシス)などを交配して生み出された系統で、特にノアゼット ローズは古くから知られています。一方でハイブリッドムスク ローズは20世紀に入ってから確立した系統で多くは3mほど伸長し、枝葉、花の印象も現代のばらにより近くなっています。
ノアゼット ローズ
両系統の親であるロサ・モスカータは分布範囲が広くそのため変種が多く存在しています。白一重の花が房になって咲き、独特の麝香(ムスク)の香りがあることからロサ・モスカータ、またはムスク・ローズなどと呼ばれています。
交配に利用されたのは一部の返り咲く原種と推測され、ノアゼット ローズはパーソンズ・ピンク・チャイナ(ロサ・キネンシス・オールドブラッシュ)とロサ・モスカータの交配によりアメリカで誕生した「シャンプニーズ・ピンククラスター」が最初の品種とされています。
そしてこの品種の種子からフランスで生まれたのが今回ご紹介している「ブラッシュ・ノアゼット」で、作出者ノアゼットの名がそのまま系統名となりました。この返り咲きの大変良い小型つるばらに当時中国から導入された「パークスイエロー・チャイナ」を交配させて、「ラ・マルク」や「デプレ・ア・フルール・ジョーヌ」など、クリーム黄色の色合いを持つ品種が西洋のばらに初めて登場することとなります。
植栽効果も抜群
返り咲くばらは当時まだ珍しい存在でしたから、ノアゼット ローズの優れた返り咲き性は大変珍重されたのではないかと思われます。ただ、寒さに弱い品種がある、色調の幅が少ないなどの弱点はありました。
それらの弱点はあっても、ノアゼット ローズは返り咲き性だけではなく独特の優雅な花容やティーの香り、明るい枝葉など清らかな魅力にあふれ、派手さはなくとも静かに、愛好家たちの手により現在まで受け継がれてきました。
特に「ブラッシュ・ノアゼット」やその親である「シャンプニーズ・ピンククラスター」はアーチやトレリスなど最もばらを這わせたい場所に適する枝振りと花付きを持ち、現在も庭園素材として大活躍しています。「ラ・マルク」や「セリーヌ・フォレスティエ」など少し伸びるものは壁面や窓まわりに好適です。
ノアゼット ローズの咲く風景はどこかほのぼのとして明るく、素朴な野の花のように、道行く人々の心を和ませてくれることでしょう。
ハイブリッドムスク ローズ
もう一つのハイブリッドムスク ローズはノアゼット ローズほどおいたちがはっきりしておらず、ロサ・モスカータとの関係も無縁ではないものの、日本の野ばらやハイブリッドティー ローズなどとも交配されているため、そちらの血の方が濃く感じられます。
ただ不思議なことにこれらの系統の多くにロサ・モスカータ特有のほのかな麝香の香りが感じられ、はるかな昔の記憶が何らかのきっかけでよみがえったかのようです。
ハイブリッドムスクという名称は1917年から使用され、イギリスのアマチュア作出家であったペンバートンや彼の仕事をサポートしたベントール夫妻による品種が中心になっています。
中でも「コーネリア」「ペネロープ」「フェリシア」「バレリーナ」などは大変良く知られ、日本の家庭でも広く普及しています。この系統に属する品種の多くが返り咲き性を有し極端に伸びすぎず、つるばらとしてご家庭で使用するのに適した特性を備えています。
最も伸長力のある「コーネリア」は窓廻りやパーゴラなどに、「ペネロープ」は返り咲きが多く横張りの樹形を生かしてフェンスや壁面に、最もコンパクトな「フェリシア」はアーチ仕立てなどに、それぞれ伸長と枝振りに応じて植栽場所を使い分けるとより効果的です。
返り咲きがある割には誘引しやすい
「返り咲く」という性質は言いかえれば四季咲き木立性ばらに近くなっていることをさし、そのため春のみ開花の品種に比べて初期成長が緩慢で枝振りは固く、誘引が難しくなります。その中でも今回ご紹介した二つの系統の品種たちは比較的誘引もしやすく、お庭に最初に植栽されるのにふさわしいと思えます。
アマチュア作出家による品種も多く含まれるこれらの系統が今も多くの人々に愛され、お家の壁を、庭を彩っていることを、彼らも予想外の喜びとして天上で受け止めていてくれるような、そんな気がしています。
特におすすめの品種
特におすすめの品種を抜粋して、ご紹介させていただきます。
コーネリア – Cornelia
杏色の暖かな色彩の小輪花が房になって咲き、ムスク系独特の甘くやや重い香りが漂います。伸長力が強いため秋の返り咲きは少なくなりますが、その分誘引しやすく、トゲも少なめです。照葉も美しく秋に咲いた花で実も楽しめるなど、花以外の楽しみも。窓廻りやパーゴラなどやや広い植栽場所に適します。
ペネロープ – Penelope
ウェーブのかかる白い花弁にほんのりとかかる杏色のニュアンスが大変美しい。葉も深緑で花色との調和が良く、初冬まで大変多くの返り咲きが楽しめます。枝数は、最初は少ないのですが作り込むごとに側枝が増えますので、それも生かして咲かせるようにします。トゲも少なく、壁面仕立ては特に見事です。ムスクローズ特有の香りが漂います。
フェリシア – Felicia
上記2品種と比べますと幾分木立性のばらに近づいています。返り咲きが非常に多く、ダマスク基調の上品な芳香にも恵まれています。明るい緑の葉も花も、やや茂りがまばらなのですが、それはそれで味わい深く思えます。初冬まで大変良く返り咲き、自立型の性質を生かしてアーチや鉢仕立てにも好適です。
ブラッシュ ノアゼット – Blush Noisette
透き通るような桜色が美しく、花付きも最良です。枝を曲げなくても良く花が咲くため、アーチ仕立てに最適であるほか、あらゆる小スペース向きの小型つるばらとして大変使いやすい品種です。雨で開ききれないこともありますが、たくさんの蕾は見ているだけで楽しいものです。
ラ マルク – Lamarque
白に中心クリーム色がさすロゼット咲きの花は優雅で、花径も大きめで見応えがあります。爽やかなティーの香りがあり、明るい緑の枝葉も花色をひきたて、株全体が清らかでとてもすがすがしい印象です。良く伸びる枝を生かして窓廻りやパーゴラなどに誘引すると美しい。
セリーヌ フォレスティエ – Celine Forestier
クリーム色に弁端ほのかにピンクが挿す、何とも言えないデリケートな色調と端正に整ったロゼット型の花が人々を魅了します。主幹は太く自立するので、主幹から発生する側枝を主に誘引して咲かせると美しい。葉は明るい緑で、花容にふさわしいさわやかなティの香りがあります。