ガリカローズは現存するばらの中で最も古くから栽培記録の残る系統で、古代のローマ時代、一世紀ローマの博物学者プリニウスが記した「博物誌」にも、「燃えるような赤いばら」としてその存在が示されています。
この原種が自生していたフランス南部の地域を当時はガリア地方と呼んでいたことから、ガリカローズと呼ばれるようになったとされています。その他単にフレンチローズと呼ばれたり、薬用植物として利用されていた歴史から、ラテン語で薬を意味する「アポテカリ・ローズ」の別名もあります。
遺伝学的には赤ばらの祖先とされ、実際この系統には赤や紫の花色を持つ品種が多く存在します。また、ばらの収集と保護で有名な皇后ジョセフィーヌのマルメゾン宮殿においても、150種ものガリカ系交配種が植栽されていたとのこと。
このように交配親としても、人間との関わりの歴史においても極めて重要なガリカローズですが、実は庭園素材としてお庭の植栽に利用するにも、鉢仕立てにして楽しむにも魅力が一杯の系統なのです。
様々なシーンで活躍
「オールドローズを何か植えてみたいのですが・・・」
と、おっしゃるお客様にもガリカローズの仲間をおすすめすることが多いです。その理由を挙げると下記のようにまとめられるでしょうか。
- とにかく花付きよい。
- 枝が細くしなやかで誘引しやすい。
- 多くは芳香を持つ。
花付きが良く枝がしなやかであることは、使いやすいつるばら(春のみ開花する品種は基本的につる状に枝が伸びます。)として外せない条件です。例外はあるものの、ガリカローズの仲間はほとんどがこの条件を満たしています。そして素晴らしい芳香も。
つるばらを育ててみようとされる方に変わらず人気の、アーチやトレリスに適した品種もこの系統には多く見受けられます。
特にアーチは一般的にあまり枝を広げるスペースがありません。そのため枝を横に倒せなくても花付きが良く、またアーチとの一体感を出すためにはステム(花茎)の短い品種を選ぶことが重要になります。ガリカローズの仲間にはその条件を満たす品種が多いのです。
オールドローズ類の多くは春のみの開花ですのでそれを惜しまれる方もいらっしゃいますが、返り咲く品種ほど木立性ばらに性質が近づきますので枝は太く剛直になり、誘引も難しくなります。
春咲きの品種ほど枝はしなやか、特にガリカローズのような細い枝の品種は小スペースでも誘引しやすく、繊細な表情を描き出すことが出来ます。
例えば「カーディナル ド リシュリュー」「デュセス ダングレーム」「デュセス ド モンテベロー」などは特に花付きと枝葉の繊細さ、誘引のしやすさといった点からアーチやオベリスクなど小さめの構造物でも素晴らしい植栽効果を発揮します。
もう少し大型の「ベル ド クレシー」や「紫玉」はアーチから壁面、トンネルなどに適し、さらに大型の「キング ジョージ4世」などは窓廻りに誘引してもシックな色彩と香りで人々を魅了することでしょう。
ガリカローズは鉢仕立てでも良く咲きます。このように楽しみの多いガリカローズを是非、植栽の候補に加えてみてはいかがでしょうか。早春の芽吹きの美しさや春の満開時の姿に、モダンローズとはまたちがった息吹と内包される歴史の深さに、きっと新たな感動を味わっていただけることと思います。
特におすすめの品種
特におすすめの品種を抜粋して、ご紹介させていただきます。
ロサ ガリカ オフィキナリス – Rosa gallica officinalis
現存するガリカローズの中でもっとも古くから知られている基本種。明快なピンクで花付きが良く、枝も細く繊細なのでアーチやトレリスにも応用可能。弱い剪定をして庭木のように楽しむのも風情がある。
はっきりとした絞りの入るロサ・ムンディ(ロサ・ガリカ・ヴェルシコロール)も同様に植栽できより華やかな美しさで人気が高い。
カーディナル ド リシュリュー – Cardinal de Richelieu
この系統を代表する品種でシックな紫色がとても美しい。素晴らし花付きとあいまってどのような植栽場所でも抜群の演出効果を発揮する。嬉しいことにトゲもほとんどない。
花名はフランスのルイ13世の宰相でもあったリシュリュー枢機卿にちなむ。
キングジョージ 4 世 – King Georji IV
名前は洋風だが和風の趣もある丈夫なガリカローズ。もっとも伸長力旺盛で窓廻りなど少々広いスペースで楽しみたい。あまり知られていないがシックな赤紫の色彩と花容に加え香りも良く、家庭用つるばらとして大変魅力的。
デュセス ダングレーム – Duchesse d’Angouleme
ソフトな色彩と俯いて咲く風情が大変に美しい。素晴らしい芳香があり、香りのばらとしても楽しめる。枝葉が特に繊細で最初はたよりなげに思えるが3m近く伸びる強健さも合わせ持つ。
アーチやオベリスク、トレリス、フェンスなどどのような植栽にも応用可能。
デュセス ド モンテベロー – Duchesse De Montebello
ガリカローズの中でも、家庭用つるばらとして特にお勧めできる品種。香りも良く素晴らしい花付きで鈴なりに咲く満開時は本当に見事。3mほど伸びるたくましさを持つが、枝は細くしなやかで扱いやすい。アーチやオベリスク、窓廻りなどに特に好適。
トスカニー スパーブ – Tuscany Superb
赤いガリカローズを代表するようなばら。充実した花は深い色彩と黄色のおしべが目だって素晴らしい。ダマスク系の香りも豊か。若い苗のうちは充分な花付きが得られないこともあるようですが、良い花が得られたときの感動が忘れられません。
枝は細めでやや直立状、トレリスや窓辺に誘引すると美しい。