ばらの香の代表ともいえるダマスク香。現在もばらの精油はこのダマスク・ローズから採取されています。ダマスク・ローズはガリカ・ローズとロサ・フェニキアもしくはロサ・モスカータの交雑により生じたものと推測され、現在では原種とは考えられていません。

今回はこのダマスク・ローズと、これにロサ・キネンシス(庚申ばら)が交配されて出現したとされるブルボン・ローズに焦点をあててみたいと思います。

ロサ モスカータ

今でも香料として生産されています

ダマスク・ローズはシリアの首都ダマスカスにちなむとされ、また古代ギリシアのヘロドトスが「他のばらに優る芳香を放つばら」として記述をのこしていることなどからも、栽培の歴史は相当古いものであることが推測されます。

花色は明るいピンクで半八重から八重咲き、半つる状に散開した樹形を持ちます。香料採取で有名なブルガリアのバラの谷で現在も使用されているのは基本種であるロサ・ダマスケナの変種でロサ・ダマスケナ・トリギンテペタラ、別名カザンリクとも呼ばれる品種です。

ロサ ダマスケナ トリギンテペタラ

刺は少し多めの枝

ダマスク・ローズは日本ではつる状に伸び、トゲは多めでガリカ・ローズよりは荒い枝振りをしています。花付きもガリカ・ローズに比べると一般的に少ないため、もっぱらハーブとしての利用や、コレクションとしての価値の方に重点がおかれます。

しかし一部は家庭用のつるばらとしても見過ごせない、素晴らしい品種も存在します。

たとえばトゲが少なめで花付きも素晴らしいイスパハンは壁面や大型のアーチ、オベリスクなど、可憐なラベンダーピンクの花を鈴なりに咲かせるブラッシュダマスクはアーチやガゼボの入り口部分などに、清楚な美しさにあふれ、芳香高いセルシアーナも庭園素材として活用してみたい品種です。

いずれも開花は春のみですが、ばら好きなら一つは持っていたい系統と思えます。

バラエティに富んだブルボン・ローズ

一方で、ダマスク・ローズの中にはロサ・ダマスケナ・ビフェラという、唯一返り咲き性をもつ品種が存在します。別名「キャトルセゾン」、(フランス語で四季の意)実際にはそれほど返り咲きは多くないのですが、他に返り咲く品種のない西洋のばらの中にあっては貴重な存在であったことでしょう。一季咲きのダマスク・ローズと区別して「オータムダマスク」と呼ばれることもあります。

代表的なダマスクローズ キャトルセゾン

19世紀はじめにイギリスのプラントハンターたちによって中国から四季咲き性の強い庚申ばら(ロサ・キネンシス)の仲間が紹介されると、ばらの歴史は一気に華やぎを増すことになります。今回ご紹介するブルボン・ローズも西洋の古くからあるばらと中国の庚申ばらとの交雑によって生じた仲間のひとつです。最初に発見されたのがインド洋にうかぶブルボン島(現在のレユニオン島)であったため、この名で呼ばれることとなりました。

植栽効果も高い、人気の系統

ブルボン・ローズは現在も人気の高い系統で、多くはつる状に伸び、春のみ開花の品種から少し返り咲くもの、SVマルメゾンのように完全な四季咲きのものまでバラエティに富んでいます。枝葉の特徴もダマスク・ローズとはかなり異なり、現代のつるばらに近い形状になっています。

この系統では香り高くカップ状の花型が美しいラ・レーヌ・ヴィクトリアやすばらしい花付きで植栽効果抜群のブルボンクイーン、完全な四季咲き性をもつSV(スーヴニール)ドゥ・ラ・マルメゾンなどがよく知られています。

つる状の品種は壁面や窓廻り、パーゴラなどに素晴らしい植栽効果を発揮します。 ブルボン・ローズの多くは芳香性ですから、香りの良い窓辺などを演出したいときにはぜひ活用したい系統でもあります。

ラ レーヌ ヴィクトリア
ジャック カルティエ

また、ブルボン・ローズと同様の起源をもつ系統として、ポートランド・ローズが挙げられます。ロサ・キネンシスの四季咲き性が西洋のばらに導入された最初の系統として重要であり、例外はあるもののこちらはより返り咲き性が強く、その分樹形はコンパクトです。

コント・ド・シャンボードやジャック・カルティエなどが現在もよく知られています。多くは芳香豊かで美しい花型を持ち、現存する品種数は少ないですが、それぞれに個性豊かで大変魅力的な系統です。

ブルボン・ローズやポートランド・ローズなど、ロサ・キネンシスとの交配による初期の系統は正直なところ、耐病性にはより注意が必要です。これは後にご紹介させて頂くハイブリッドパーペチュアルローズやモスローズなども同様かと思います。

しかしながらこれらの系統の品種たちにはそれを補って余りある魅力があり、ばらの歴史や、文化遺産としての価値を考えたとき、耐病性の弱さは何らデメリットになるものではないと個人的には考えております。

中国の四季咲きバラ、ロサ・キネンシスの仲間がヨーロッパで紹介されたことは、当時のばら愛好家たち、特に育種家にとっては大変衝撃的であったことでしょう。こののち、完全な四季咲き大輪種、ハイブリッド・ティーローズの誕生にいたるまでの間、長きにわたってさまざまな試行錯誤が繰り返されました。

それらの意欲的な試みの最初の系統にあたる ブルボン、ポートランドといったばらたち、そしてはるか昔から変わらずに咲き、香り続ける古代のばらたちに今も囲まれて生活できますことを、本当に嬉しく、そしてありがたく思わずにはいられません。

特におすすめの品種

特におすすめの品種を抜粋して、ご紹介させていただきます。

ロサ ダマスケナ ビフェラ – Rosa Damascena Bifera

「キャトルセゾン」「オータムダマスク」の別名もある。西洋の原種系ばらとしては唯一返り咲く品種のため、一季咲きのサマーダマスクに対してオータムダマスクと呼ばれることもある。明るいピンクの花からは典型的なダマスクの香りが放たれる。おしべの黄色も美しい。一季咲きのものに比べると返り咲く分、自立型の樹形に近づいている。背丈は3m近く伸び、成育旺盛。

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ロサ ダマスケナ ビフェラ

ブラッシュ ダマスク – Blush Damask

1759年以前と古くから知られる交配種。ダマスク系としては花付きが大変良く樹形もまとまり、ガリカローズの影響をうかがわせる品種。香りも良く、ラベンダーピンクのロゼット咲きの花が鈴なりに咲く満開時は見事というほかない。葉の茂りも繊細で美しく、コンテナやアーチ、ガゼボの入り口付近など、人目に付きやすい場所への植栽にも充分効果的。

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ブラッシュ ダマスク

ラ レーヌ ビクトリア – La Reine Victoria

枝葉の性質は本来のアルバローズとは異なるが、切れ込みの入る明緑色の葉や白い清楚な花は大変清らかで美しい。枝は細くトゲがまったくないのも嬉しい。

アルバローズにはこの品種の他、クロリスやソフードバビエールのようにトゲがない、または少ない品種があり、今後の庭園素材として注目される。

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ラ レーヌ ビクトリア