これまで西洋の原種系ばらを中心に、ばらの交配の歴史をたどって参りました。
育種家たちが目指した究極のバラのスタイルといえばそれはやはり四季咲き大輪バラ、すなわちハイブリッドティ ローズ。今回はその前段階にあたる系統、「ハイブリッド パーペチュアル ローズ」を取り上げてみたいと思います。
四季咲きバラ誕生へと向かう課程の最終段階ともいえるこの系統には、ひときわ個性的で魅力的な品種が数多く存在しています。
庚申ばらの導入により強い返り咲き性は獲得できた
中国の原種「ロサ・キネンシス(庚申ばら)」の仲間の導入により交配の可能性はさらに広がり、19世紀半ばにはスブニール・ドゥ・ラ・マルメゾンのように完全な四季咲き性をもつバラも誕生しました。
またブラッシュ・ノアゼットのように四季咲きといって良いほどの返し咲き性を持つつる性品種も比較的早くから作出されています。しかし「大輪で強健な四季咲きバラ」は容易には誕生しませんでした。
四季咲きで強健な大輪花を求めて誕生したハイブリッドパーペチュアル
ティー ローズやチャイナ ローズには見られない色彩や豪華さを持つ、強健なバラ。それらを生み出すべくさまざまな試みが続けられた課程で誕生したのがハイブリッド パーペチュアル ローズで、成り立ちにはさまざまな系統が関与しており、一様ではありません。
1830年頃に確立したとされ、記録上では700種もの品種が存在しています。「パーペチュアル」とは絶え間ないことを意味しますが、実際にはそこまでの返り咲き性は得られていません。多くが夏までにもう一度咲く二季咲きか、不定期な返り咲きを持つくらいですし、近年の品種よりは病害虫にも注意が必要です。
しかし、ひときわ魅力的な花容や豊かな芳香は現在も色あせず、これまでの品種より大輪で華麗な花型は当時の人々の間でも人気でした。重ねの多いカップ状の大きな花が重たげに咲いている様子はまさに宮廷の貴婦人のようです。
花色は赤やピンクが主流ですが一部紫や白、杏色の品種も存在し、中でも1901年にドイツのランベルトによって作出されたフラウ カール ドルシュキーは白つるバラの名花として現在も広く愛培されています。
太いシュートの使い方がポイント
返り咲きの多さによって枝の伸長も異なり、返り咲きが少なくつる状に伸びる品種としては、糸覆輪の入る特異な色彩と美しい花容が魅力のバロン ジロー ド ラン、後の四季咲き赤バラへの重要な交配親として有名なジェネラル ジャック ミノ、トゲがほとんどなくエキゾチックな色彩が魅力のスブニール ドゥ ドクタージャメインなど、主な用途は壁面への植栽となりますが、いずれも赤系の家庭用つるばらとして有用な品種です。
返り咲きが多く枝の伸びも緩慢な品種はアーチに仕立てたり、木立性ばらのように鑑賞したりすることもできます。香りの良いミセス ジョン レインやトゲがなくすみれ色の色彩が美しいレーヌ デ ヴァイオレット、豪華な花容と絞りの入る色彩が魅力のヴィックス キャプリスなど、見飽きない美しさについ時を忘れます。
この系統の品種は四季咲きをねらって交配されたものの、実際にはつるバラとしての性質を色濃く残すため、太くて剛直な枝が出やすい特徴があります。そのため一体どこで剪定して良いのか、戸惑われることがあるかと思います。
太くて長いシュートは水平方向に誘引するとつるばらのようにたくさんの花を楽しむことができます。ただ伸ばしたままにしておくと頂上にしか開花が得られないため、誘引できない場合は軽くでも剪定を行い、頂芽優勢をくずしておくと花数を増やすことができます。
この系統から完全な四季咲き大輪であるハイブリッド ティ種が誕生し、ばらの世界はますます彩り豊かに発展してゆくこととなります。当時の育種家たちの夢と情熱、人類の向上への願いが込められたハイブリッド パーペチュアル ローズは、数あるバラの系統の中でもひときわ愛おしく、輝きに満ちたものに思えてなりません。
特におすすめの品種
特におすすめの品種を抜粋して、ご紹介させていただきます。
ジェネラル ジャックミノ – General Jacqueminot
現代赤バラの誕生に重要な役割をはたしたマザーローズのひとつで、クリムソングローリーなど多くの赤ばらがこの品種の血をひくとされます。花径は中くらいですが花付きは非常に良く、満開時は大変見事です。青みを帯びた新芽も美しく鑑賞価値があります。ダマスクの香りがあります。(花名はナポレオン戦争の勇士で国民軍の司令官もつとめたジャック ミノ将軍にちなみます。)
スブニール ドゥ ドクター ジャメイン – Souvenir du Docteur Jamain
ベルベット調の黒赤に黄色いおしべが映えて美しい、ひときわ印象的な品種です。咲き終わりは紫をおびますがそれも味わい深い色調です。細い枝を株元から多数発生させ、枝が余るくらいですがトゲがほとんど無いので扱いやすく、夏までにもう一度返り咲きます。ダマスクの香りがあります。
ミセス ジョン レイン – Mrs.John Laing
ハイブリッド ティ種の系統確立に尽力したベネットによる作出で、外弁がわずかに反り返り、重ねの多い重厚な花容が人目を引きます。花容にふさわしい素晴らしい芳香があり、芳香品種としても楽しめます。半つる性ですが比較的良く返り咲きますので剪定をかけて木立状に楽しむことも可能です。
フラウ カール ドルシュキー – Frau Karl Druschki
白さが際立つ名花で、返り咲きはありますがつる状に長く伸びます。蕾のうちはピンクを帯びますが開くと純白になり、ステムは短く花付きが大変良好です。残念ながら香りは少なく、デリケートな花弁は雨に弱い一面もあります。しかし独特の透明感ある色調や弁質はやはり古い時代の品種ならでは、明るい緑の新芽も清らかさを引き立てます。