F値とは – F値と明るさ、ボケ量の関係
写真の明るさを決める三要素として「F値」「シャッタースピード」「ISO感度」があります。
今回はこのうち「F値(絞り値)」についてお話してみたいと思います。
このF値という数値を操作することで、光の取り込み量を調整できるほか、写真のボケ量を操ることができるようになり表現の幅が大きく広がりますので、カメラの設定で積極的に調整してみましょう。
F値は光の通る道の広さを表している
「F値」と言われても全く想像できないかと思いますが、数値自身はわかりやすい場所に表示されています。
どこに表示されているかと言いますと・・・
カメラの背面液晶やファインダーの下の方に書かれている「F○」と書かれた数値が「F値(エフち)」「絞り値(しぼりち)」と呼ばれている数字になります。ローマ字では「F-number」と書きます。また「F」とは「焦点の」を意味する「focal」から来ています。呼び方はいずれでも大丈夫です。
レンズから入る光の量を数値化している「F値」
カメラというのは、レンズから光が入ってカメラ内のセンサーに当たり、そして写真として現像されていますが、「F値」というのはこのレンズ部分で「光の道幅」を表している数値です。どれだけの光がレンズから入ってくるのかを数値化したものになります。
F値の値が「小さく」なると、レンズから入ってくる光の量が「増えて」明るく撮影できます。逆にF値の値が「大きく」なると、入ってくる光の量がどんどん「減って」いきます。
例えば・・・
- 「F1.8」など数値が小さいほど光が多く入る状態です。
- 「F8」と数値が大きくなるに従って入ってくる光の量が減っていきます。
レンズの中には「絞り羽」と呼ばれるものが複数枚、円形状に配置され、それらが同時に動くことでレンズから入ってくる光の量をコントロールする「絞り機構」が備わっています。
絞り機構により光の通る道幅=中心の穴の大きさを調整します。穴の大きさにより入ってくる光の量が変化するため、それに従ってF値が変化します。
※ちなみに、スマートフォンのカメラ機能にもF値が表示されている機種がありますが、絞り機構が無いためF値固定のものが多いです。
カメラ側で設定したF値にそって「どれだけ光を絞るか」が決まります。
ちなみに、絞り機構はシャッターが切られた際に指定したF値になるよう、瞬間的に動作して光の量を調整しています。
より光を多く取り込みたい場合は、「F値を小さく(数字が小さくなる方)」することであまり絞られずに大きく開いた状態でシャッターが切られます。この状態を「開放」と呼び、F値を小さくすることを「絞りを開く」「開放にする」といったりします。
また、そのレンズにおいて設定できる最大にまで開放状態にした際のF値を「開放F値(かいほうエフち)」と呼びます。レンズに書かれているF値は、この開放F値のことを指しており、そのレンズが最大まで開放にしたときにどのだけの光を取り込めるのかを示しています。
カメラの「絞り優先モード」で自由に設定してみよう
多くの一眼カメラには、F値(絞り値)を自由に設定できる「絞り優先モード」が搭載されています。
カメラの機種によりますが、ダイヤル式(モードダイヤル)で指定できるようになっており、「A」または「Av」と書かれた部分にダイヤルを合わせれば「絞り優先モード」になります。
絞り優先モードでは、F値(絞り値)を撮影者が自由に設定でき、それ以外の設定はカメラ側で自動調整されるモードになります。これにより、F値が変動してもその他の設定が自動で変動して適正露出を維持します。
F値の変動によりレンズから入る光の量が変動しても、ISO感度やシャッタースピードが自動調整されるため、写真の明るさ自体は変動しないようになるモードです。このため、撮影者はF値の調整に集中できるようになります。
個人的には最も利用するモードで大変お世話になっています。後述する絞り値の変動による様々な効果を意図的に調整できるようになりますので、ぜひ使いこなしてみてください。
絞りを変えることによる「ボケ量」の調整
絞り機構があることにより、写真表現の幅がぐっと広くなりました。
特に大きな影響として「被写界深度」を容易に調整することができるようになります。
ピントの合っている範囲を示す「被写界深度」
写真において、ピントをしっかり合わせた場所の前後でもピントが合っているように見える範囲のことを「被写界深度(ひしゃかいしんど:depth of field)」と呼びます。
レンズという構造上、厳密にピントがしっかりと合った場所はある平面上にしかなく、そこから少しでも前後すればピントが合わなくなりボケてしまいます。しかし、そのボケの量が人の目(またはセンサー)に感知できないほど小さいものであれば、その部分もピントが合っているように見えます。
この「ピントが合っているように見える」その許容範囲のことを「被写界深度」と呼んでいます。
こちらの写真は「諏訪高島城」と「藤の花」になります。「F値」は「F8」で撮影しています。
カメラの設定でピント自身は手前の藤の花に合わせていますが、手前の藤の花と背景にある高島城、いずれも何が写っているか判別できるほどには鮮明に写っており、何となく全体でピントが合っているような写真になっています。
このような状態を「被写界深度が深い」、または「パンフォーカス」と呼びます。
厳密にはピントを合わせた部分以外は若干ボケているのですが、そのボケの量が非常に小さくなっているため、全体でピントが合っているように見えています。
こちらはばら「ラ・フランス」になります。反対に「F値」を下げて「F1.2」まで開放にしています。
ピントはラ・フランスの花に合わせています。その部分だけ鮮明に写っていますが、それ以外の部分は大きくボケており、より花を引き立てるような写真になっています。
このような状態を「被写界深度が浅い」と呼びます。
F値を調整してボケ量を操ろう
F値は光の通り道の広さを変えるもので、写真の明るさを決める要素のひとつなのですが、このようにボケ量をつかさどるものでもあり、このF値を操作することで「どれだけボケの入った写真にするか」を撮影者が決めることができるようになります。
では、F値を変えることでどのようにボケ量が変化するか見てみましょう。
※フルサイズのボケ量です。APS-C機やマイクロフォーサーズ機などセンサーサイズが小さくなると同じF値でもボケ量が小さくなります。特にスマートフォンなどは「F2」程度でもセンサーサイズが小さすぎてあまりボケません。
このように、F値を調整することでボケ量を調整することができるため、積極的に値を変更してみましょう。
例えば風景写真など、全体でくっきり撮影したい場合は基本的に「パンフォーカス」を狙うことになりますので、被写界深度を深くするため「F値の値を大きく」して「絞った状態」にする必要があります。
逆にメインの被写体を浮かび上がらせたい表現を狙う場合は、F値の数値を小さくしてしっかりピントを合わせシャッターを切りましょう。
F値の目安
パンフォーカスを狙う場合は、「F8」~「F11」辺りを上限にして設定してみてください。
これ以上のF値も設定できますが、あまり絞り込み過ぎると取り込める光の量が少なることから、シャッタースピードが遅くなりすぎてブレの原因となりますので注意してください。また、絞り込みすぎると「回折現象」が発生して画像のコントラストが少し下がり画質が逆に悪くなることがあります。
とはいえ、最近のカメラやレンズであれば極端な劣化はありませんので、究極のパンフォーカスを狙って「F16」などに設定するのも面白いかと思いますが、いくつかの注意点があることは覚えておきましょう。
ボケを活かした撮影をしたい場合は、「F1.8」や「F2.8」など開放気味にして撮影してみましょう。ただし、レンズによっては開放F値があまり下げられないものも多い(特にズームレンズ)ので、よりボケを楽しみたい場合は開放F値が低く明るいレンズが多い「単焦点レンズ」の利用を検討してみてください。
ボケの量はF値以外の要素も関係する
ボケ量はF値の変動で調整できる旨をお話してみましたが、実はボケの量はF値以外の要素も大きく関係しています。
一つ目は「レンズ焦点距離」で、望遠(焦点距離が長い)で撮影することで同じF値であってもよりボケるようになります。F値があまり下げられないズームレンズなどでなるべくボケを活かしたい場合は、被写体から少し離れてレンズの焦点距離を長く望遠気味で撮影する手法があります
二つ目は「カメラと被写体までの距離」で、カメラと撮影したい被写体との距離が近いほどよりボケるようになります。レンズによりピントを合わせながら被写体にどれだけ近づけるか(最短撮影距離)は異なりますが、なるべく近く寄って撮影することで印象的な表現が可能になります。
三つ目は「被写体と背景物の距離」で、被写体と背景にあるものの距離が離れていればいるほどボケが大きくなるようになります。このため、撮影したいものの位置関係をしっかり観察して構図を決めてみましょう。
このようにF値だけがボケ量の要因ではなく、構図をしっかり決めることでもボケを操ることができますので、撮影の際は自身もよく動いてどの位置から撮影すればよいのか、構図をよく考えて撮影に挑んでみましょう。
開放で撮影することでブレを抑えた撮影ができる
F値の大きな効果として「ボケ量」がありますので、どうしてもこの話がメインとなってしまいますが、元々の意味は「レンズから入ってくる光の量」を表した数値ですので、こちらのメリットもございます。
F値の数値が下がると絞りをより開き「開放」状態となります。レンズから多くの光を取り込むことができることから「シャッタースピード」を速く指定できるようになるメリットがあります。
シャッタースピードは、カメラのイメージセンサーに「どれくらいの時間、光を当てるか」を設定します。
シャッタースピードが速くなればなるほど「短い時間」しかセンサーに光が当たらないため、光量が足りない場所(曇りの日や林の中、夜間など)では暗い写真になりがちですが、代わりに素早くシャッターを切れることから「手ブレ」「被写体ブレ」が抑えられ、動く被写体をピタッと止めた写真を撮影することができます。
このシャッタースピードを速くするためには、絞りを開放にして多く光を取り込む必要があります。ただし、絞り開放にすると「被写界深度」が浅くなることもセットになるため、この2つの関係を意識して設定していきます。
また「ISO感度」を上げることでシャッタースピードを速く設定する方法もありますが、こちらはまた別記事にて。
ちなみに、あえてシャッタースピードを落とすことで表現できる世界もあります。例えば「滝」の流れる様子をゆっくりシャッターを切ることで水が糸のように流れた様子を撮影することができます。また、星空を撮影するなど「極端に暗い状態」でも明るく撮影するためには、シャッタースピードを落として長くセンサーに光を当てる必要がありますので、この場合も意図してシャッタースピードを遅く設定します。
絞ることで画質が改善する
意外に思われるかもしれませんが、例えば「F5.6」や「F8」などと絞っていくと、実は画質が向上していきます。
これはレンズ外周部の精度の問題で、解放にするとレンズ全体で光を取り込める反面、どうしても精度が落ちがちなレンズ外周部まで光を通さなくてはいけなくなり、特にそのレンズの解放F値において画像四隅部分で解像感の劣化や各種収差が発生しやすくなります。(中心部分はあまり変わりません。)
絞り込むと光の通り道が狭くなるかわりに、レンズの中でも特に精度が高い中央付近のみが利用されることから、大幅な画質改善が見込めます。解像感がアップし、色滲みなどの各種収差が改善され、全体の画質が向上します。
実際に確認してみるため、F値を変えた画像を2枚用意し、それぞれ赤枠部分を拡大表示してみます。
レンズ「Canon RF 24-105mm F4 L IS USM」は通しで開放F値「F4」が設定できるという高級な大口径ズームレンズですが、それでも開放F値で撮影すると四隅部分では像が流れてしまっており、解像感が落ちてしまいます。
同じレンズで「F8」まで絞り込みました。より細かく解像するようになり画質が大幅に改善しました。このため、風景写真などパンフォーカスを狙う写真を撮影したい場合は、「F8」前後まで絞り込むことで画像全体の画質向上が見込めます。
ただし、光は波の性質があるため、あまり絞り込み過ぎるとレンズ内で「回折」という現象が発生し、無駄な屈折や反射がレンズ内で起きてしまうことからコントラストが下がり「逆に画質が落ちてしまう」可能性がでてきます。ほとんどのレンズは「F6.3」~「F8」辺りで最高の解像性能を出せるように設計されています。絞り込む場合では、この辺りのF値を目安にするとよいでしょう。よりパンフォーカスを狙う場合には、少し画質が劣化するかもしれないことに留意しながら、F11以上に設定して楽しまれてみてください。
もちろん、絞ることで特に光量が減ることからシャッタースピードが稼ぎにくくなり、ブレやすくなる点には注意します。
F値を操作できれば写真表現の幅が広がる
F値は特に「被写界深度」をその場で調整できるという大きな特徴があります。また、「シャッタースピード」「画質」など、そのほか様々な要素にも関係してきますので、これらとの関係が肌感覚で身につくと写真表現の幅も大きく広がります。
デジタル写真は何枚撮影しても無料同然ですので、ぜひ色んな設定を試してみてください。