はじめてビロード調の深紅色を体現 – クリムソン グローリー
はじめてビロード調の深紅色を体現した赤ばらの名花「クリムソン グローリー」
ハイブリッドティ・ローズの交配、特に赤いばらの歴史を語る上で外すことのできない重要な品種です。1935年ドイツのウィルヘルム・コルデス2世によって作出されました。交配は同じコルデス2世作の「Cathrine Kordes」、それと「W.E. Chaplin」です。
深みのある黒赤で、ビロードタッチの花弁を体現した、はじめての品種といわれています。
現在の丈夫な赤ばらを見慣れた方にとっては、どうしてこの品種が当時そんなに話題になったのだろうと不思議に思われると思います。
しかし伝統的な品種とは不思議なもので、つきあいが長くなるにつれ、「あ、こういうところが当時の人々の心を惹きつけたのかな」とさまざまな気付きを送ってくれます。
花付きの良さと強い香りが魅力、交配親としても活躍
クリムソン・グローリーのよいところとして、まずは抜群の花付きが挙げられます。そのためか樹の生長は遅い傾向にありますが、2年目以降はしっかりとした横張りの完全樹形に育ち、多くの花で覆われて大変見事です。当時は花首が弱くうつむいて咲くことが欠点といわれていましたが、現在の観点から見るとかえって柔らかい雰囲気があって、優れた花壇用品種と思えます。
さらに甘みのある香りも長く愛されてきた所以です。ブルーイング(花色が紫っぽく褪色すること)する欠点も指摘されてきましたが、当時はそれが普通であったことを思いますと、交配の歴史をたどる面白さもあり、また実際まったく鑑賞できないほどでもありません。
さらに枝変わりのつる性種は樹勢が強健になるためでしょうか?もとの四季咲き性種以上に質の良い花と周りを圧するほどの芳香で、こちらは現在も広く愛培されています。
クリムソン・グローリーは交配親としてさかんに利用され、その子孫はHT種だけでなくフロリバンダ種やつるばらにまで広く及んでいます。代表的な子孫にジョセフィン・ブルースやイナ・ハークネス、フロリバンダ種のファッションなどがあり、いずれも時代の寵児となりました。
作出後世界はまた大戦の時代となり、イギリスでは多くのドイツのばらが排除されましたが、この品種だけは作り続けられたとのこと。
時代と国境を越えて愛されたクリムソン・グローリー。優秀な子孫たちの登場でだんだんと栽培の一線からは外れてゆきましたが、多くの人々に愛された記憶と誇りが今も静かに、輝いています。