四季咲き革命をもたらした東洋のばら ティー、チャイナとその祖先

完全な四季咲き性と花付きの良さ、優雅な雰囲気などで現在も人気の高いティー・ローズとチャイナ・ローズ。これらはすべて中国原産の庚申ばらの仲間が起源となっています。今回はバラが四季咲き性を獲得するに至った経緯とその起源である中国のバラたちの魅力にせまってみたいと思います。

四季咲きの起源は「庚申ばら」

現在わたくしたちが公園や切り花で目にする四季咲きのばらは、原種の中で唯一四季咲き性を持っていた中国の庚申ばら(ロサ・キネンシス)の仲間に由来しています。

庚申ばらには変種が多いのですが、遙か昔はつる状で他の原種と同じく一季咲きであったと推測されます。実際に近年発見されたロサ・キネンシス・スポンタネアや昔から栽培されているロサ・キネンシス・アルバ(白長春)などはつる性で、開花も春のみです。それがどのようにして四季咲き性を獲得したのかは現在でも解明されていません。

ロサ・キネンシス・アルバ

四季咲きは返り咲きの延長?

四季咲き性を持つ品種は一般的に樹高が低いという特徴があります。これはつるを伸ばすという働き(栄養成長)が、開花(生殖成長)によって抑制されるためで、そのため開花の回数が多いものほど樹高が低い傾向にあります。

ミニチュア・ローズの親であるロサ・キネンシス・ミニマなどはその典型的な例で、背丈は20センチほどにしかならず、温度さえあれば常に蕾を持っています。また、基本はつる性ながら返り咲きも少しあるといった、中間型の性質を持つ種もあり、だんだんと開花の頻度が増してそのうち一部に枝の伸びない、四季咲き性を持つものが現れたのではないかと考えられます。

ロサ・キネンシス・ミニマ

いずれにしても四季咲き性を持つ庚申ばらの存在がバラの交配の歴史に革命的な変化をもたらしたことは明白で、バラが他の植物を大きく凌駕して愛され広まってゆくきっかけともなりました。

四季咲きの輸入

これらの庚申ばらの仲間がイギリスのプラントハンターたちによってヨーロッパにもたらされたのは19世紀初頭と言われています。当時は空輸などできませんから、植物を枯らさないで持ち帰ることは大変な難事業であったといわれます。その頃西洋には返り咲くバラはキャトルセゾン(ロサ・ダマスケナビフェラ)くらいしかなく、しかも庚申ばらに比較するとその返り咲き性ははるかに微弱なものでした。

最初にもたらされた庚申ばらの仲間は、強い四季咲き性を持つパーソンズ・ピンクチャイナ(ロサ・キネンシス・オールドブラッシュ)、スレイターズ・クリンソンチャイナ(ロサ・キネンシス・センパフローレンス)、ヒュームズブラッシュ・ティー・センティドチャイナ、唯一つる性のパークスイエローチャイナの4種であるとされ、前者2種がチャイナ・ローズ、後者2種がティー・ローズの祖とされています。

4つの品種がばらの世界に更なる進化を与えた

≪ロサ・キネンシス系≫四季咲き木立性の祖

  • スレイターズ・クリムソンチャイナ(ロサ・キネンシス・センパフローレンス)
  • パーソンズ・ピンクチャイナ(ロサ・キネンシス・オールドブラッシュ)

≪ロサ・ギガンティア系≫ティの香り、剣弁の祖

  • ヒュームズブラッシュティー・センティドチャイナ
  • パークスイエローティー・センティドチャイナ

また、これらの品種がもたらしたものは四季咲き性のみにとどまりません。艶のある葉、花弁が反り返る剣弁咲き、ティー・ローズの名のもととなる甘い紅茶のような芳香、パークスイエローチャイナによってもたらされたとされる黄色い色調、など、現代のバラに欠かせない多くの要素も、これら中国のばらの血筋によるものです。

特にパーソンズ・ピンクチャイナはロサ・モスカータやキャトルセゾンと交配されてノアゼット・ローズやブルボン・ローズなどの新系統を誕生させました。これらの流れから不規則ながらも返り咲き性と大輪を有するハイブリッド・パーペチュアルローズが生まれ、さらにティー・ローズとの交配により、1867年にラ・フランスを最初の品種とする完全な四季咲き大輪系統であるハイブリッド・ティーローズが誕生します。そうしてバラの世界はより彩り豊かに、大きな発展を見せてゆくこととなります。

チャイナ・ローズは祖先となる品種がピンクとローズ赤であったことから、のちの交配種も同様の色調の品種が多くなっています。

一方、ティー・ローズは例外もありますが白や淡いピンク、淡黄色の品種が多く、甘い紅茶の香りが特徴で全般的にチャイナ・ローズより花容、株姿とも大型です。いずれも細めの枝を数多く発生させ、枝先が花の重みで枝先がカーブするものが多く見受けられます。このしなやかさこそが、ご家庭の庭に欠かせない要素であると考えています。草花との調和が良く、混植花壇にもぴったりであるからです。

四季咲きで、何か花壇向きのものをとお考えになったとき、ぜひこれらの系統を候補になさってみてはいかがでしょうか。楚々とした風情と花付きの良さ、繊細な枝振りは目にも優しく、大輪種の弱点である株元の寂しさをもカバーしてくれるでしょう。

レディ ヒリンドン

また、グルス・アン・テプリッツやプタオホンなどは弱剪定にすると2mくらいに伸び、完全な四季咲きのアーチをつくることもできます。このような枝の自由度の高さは特にチャイナ・ローズに多く見受けられる特徴で、もともとはつるばらであった性質も関係してのことと思われます。

四季咲き品種の登場に驚嘆したであろう当時の育種家たちの情熱に思いを馳せながらも、今も静かにたたずむ東洋のバラたちの偉大な功績に、人智を超えた自然の神秘を感じています。

特におすすめの品種

特におすすめの品種を抜粋して、ご紹介させていただきます。

オールド ブラッシュ – Old Blush

当時「パーソンズ・ピンクチャイナ」の名で紹介された、完全な四季咲き性をもつピンクの庚申ばらで、日本でもかなり古くから栽培されていたと推測されます。

秋になると弁端が濃くなり一層美しい色調になります。花付き良く整った株姿で花壇にも好適です。

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オールド ブラッシュ

グルス アン テプリッツ – Gruss an Teplitz

「日光」の和名で明治時代から栽培されたなじみ深い名花で大変香りが良く、俯いて咲く姿や柔らかい枝ぶり、青みをおびた葉色など上品な美しさに満ちています。

深めに剪定して木立ばらのように仕立てることも、また弱剪定でアーチやトレリスに誘引して咲かせる こともできます。

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グルス アン テプリッツ

レディ ヒリンドン – Lady Hillingdon

「金華山」の名で親しまれたティ-・ローズの代表的名花。甘い香りはティー香の典型的なものとされ、香りの名花としても知られています。赤みを帯びた枝葉と花色の調和が良く、株姿も整って美しい。枇杷のような独特の花色も人気です。

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レディ ヒリンドン

マダム アントワーヌ マリー – Mme.Antoine Mari

クリームピンクにローズピンクのボカシがかかる、デリケートな色調が魅力的です。赤みを帯びた葉も美しく良く茂り、カラーリーフプランツとしての価値も高い。花壇植栽やフェンス沿い、つるばらの足元隠しなど広範囲に利用したい品種です。

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マダム アントワーヌ マリー