カメラコラム

単焦点レンズとズームレンズの違い

単焦点レンズとズームレンズの違い

カメラのレンズは、大きく分けて二種類の形態で販売されています。

ひとつは焦点距離を変動させることができる「ズームレンズ」、もうひとつはある焦点で固定されている「単焦点レンズ」です。

「ズームレンズ」は焦点距離を変えることができるため、1つのレンズで広く撮ることも遠くを撮ることも可能となっており大変便利なレンズです。

対して「単焦点レンズ」は、例えば「50mm」なら「50mm」の焦点域しか撮影できず、これ以上広くも遠くも撮影することができません。画角を変化させるためには撮影者自身が動く必要があります。

これだけだと単焦点レンズには利点が少ないように見えますが、実は単焦点レンズにも大きなメリットが存在し、レンズ交換式カメラを長く使っていると一度は気になるレンズたちでもあります。

そこで、今回は「ズームレンズ」と「単焦点レンズ」の特徴について書いてみたいと思います。

焦点距離が可変の「ズームレンズ」

レンズとカメラが一緒になっている「レンズキット」をご購入されると、最初に付いてくるレンズはほとんど「ズームレンズ」かと思います。(ちなみに、カメラと一緒にセット販売されているレンズのことを「キットレンズ」と呼ぶことがあります。レンズ単品でも購入可能です。)

「RF24-105mm F4-7.1 IS STM」の鏡胴を伸ばした状態の写真
「RF24-105mm F4-7.1 IS STM」の前玉部分。ここにもレンズの名前が刻印されていることが多いです。

こちらはキヤノン製ズームレンズ「Canon RF24-105mm F4-7.1 IS STM」というズームレンズです。単品で購入可能ですが、キットレンズとしてカメラと一緒にセット販売もされています。

レンズの商品名、あるいはレンズ本体、レンズ前玉部分等に記載してあるミリ数が移動できる焦点距離を示しています。つまり、このレンズの場合は「広角24mm ~ 望遠105mm」まで焦点距離を移動させながら撮影できるレンズということになります。

広く撮影したい場合は焦点距離が短くなる方へ、遠くを撮影したい場合は焦点距離が長くなる方へズームリングを回すことで画角を調整できる便利なレンズです。

また、そのズームレンズの中で最も”広く”撮影できる焦点距離のことを「広角端(こうかくたん)」「ワイド端」、最も”遠く”を撮影できる焦点距離のことを「望遠端(ぼうえんたん)」「テレ端」と呼びます。

つまり、「RF24-105mm F4-7.1 IS STM」というズームレンズは、

  • 最も広く撮影できる広角端が「24mm」
  • 最も遠くを撮影できる望遠端が「105mm」

というレンズになります。標準域をカバーした汎用性の高いズームレンズです。

どれだけの範囲を撮影できるかはレンズによって異なっており、商品ラインナップとして数多くのレンズが開発されています。例えば広角側を得意とした「広角ズーム」は「16-35mm」など、標準域をカバーしたメジャーな「標準ズーム」は「24-105mm」や「24-70mm」など、望遠側を得意とした「望遠ズーム」は「70-200mm」など、さらに超望遠として「200-600mm」など様々なレンジのレンズが開発されています。

広角端「24mm」で撮影した諏訪湖。広大な範囲を撮影することができます。
望遠端「105mm」で撮影した諏訪湖内の白鳥など。遠くにある鳥も撮影できています。

ズームレンズの中で開放F値が変化しない「通しレンズ」

一般的なレンズでは、絞り羽を使った「絞り機構」という仕組みが備わっています。レンズから入ってくる光の量をコントロールするためのもので、これにより光の量や被写界深度(ボケの量)を調整することができます。

レンズの絞り機構。絞り羽と呼ばれるものが動くことで中心の穴の部分が広くなったり狭くなったりします。

この「どれくらいの量の光を取り込めるのか」を数値で表したのが「絞り値」や「F値」と呼ばれるものです。

詳しくはまた別の記事にて解説いたしますが、このF値の数値が「小さいほど」「光を多く取り込むことができる」状態で、絞りは開いた状態(開放)になっていること。逆にF値の数値が「大きくなるほど」「取り込める光の量が小さく」なり、絞られた状態であることを覚えておいてください。

開放状態だとシャッタースピードを確保できてブレを抑えられたり、またボケの量が大きくなり美しい背景ボケを楽しんだりすることができます。レンズにおいて、F値をかなり小さく設定できるものを「明るいレンズ」と呼びますが、このように明るいレンズは色々とできることが増えるので大変便利です。

そのレンズの中で、絞りが最も開いた状態でどれだけの光を取り込めるのかを表したのが「開放F値」です。

通常、焦点距離が長くなると、画角が狭くなることから取り込める光の量が少なくなるため、F値はどんどん大きくなっていきます。つまり、一般的に遠くを撮影したいほどF値が大きくなり、暗い状態になります。

先ほどのズームレンズ「RF24-105mm F4-7.1 IS STM」を例に取ると、ここの「F4-7.1」という部分が開放F値の推移を示しています。広角端(24mm)の状態では絞りを最大開放にすることで「F4」という明るい状態で撮影することができますが、望遠端(105mm)になると目一杯開放に設定しても「F7.1」にしかならず、かなり暗い状態になります。(取り込める光の量にして「半分未満」になっています。)

このようなレンズは、望遠で撮影するとどうしても明るく撮影できず、特に室内撮影や森の中などの薄暗いところではブレやすくなってしまいます。

その代わり、比較的安価なレンズとして販売されることが多く、また小型軽量化しやすいメリットもあります。

広角でも望遠でも同じF値が維持される「通しレンズ」

ズームすることでF値が変動してしまう、特に望遠側で暗くなってしまうと色々と考えることが増えてしまい何かと不便です。

そこで、開放のままズームしてもF値が変動せず同じ値を維持できるレンズが開発されました。これが「通しレンズ」と呼ばれるものです。

キヤノンの通しレンズ「Canon RF 24-105mm F4 L IS USM」。開放F値「F4」のままズームできます。

このレンズは「Canon RF 24-105mm F4 L IS USM」というもので、F値の表記は「F4」としか書かれていません。これは広角24mmでも望遠105mmでも常に「F4」を最大開放として利用できる(F4通し)レンズのためです。

「通しレンズ」は開放F値が固定で、ズームしても同じF値で撮影できるのが最大のメリットです。

ズームすることによるF値の変動がないため、明るさやボケ量に対しての考えがシンプルになります。望遠側でも非常に明るい状態で撮影できるため、大きなボケを活かした表現も可能になっています。シャッタースピードも早くしやすく、手ブレや被写体ブレなどを低減しやすいメリットもあります。

ただし、本来望遠になるにつれて暗くなる特性を高度な技術を使って押さえ込んでいるため、通しレンズは「高価」で「大きく重く」なりやすいデメリットもあります。レンズだけでも10万円以上のお値段が付くのが普通です。特に「F2.8通し」のズームレンズは「大三元レンズ」と呼ばれ、価格も30万円前後します。

焦点距離が固定の「単焦点レンズ」

ズームレンズは、ズームリングを回すことで焦点距離を変動させることができるレンズでした。

これに対して、ズーム機構を搭載せずある焦点距離のまま固定されたレンズのことを「単焦点レンズ(たんしょうてん)」と呼びます。

単焦点レンズ「Canon RF50mm F1.8 STM」

こちらのレンズは「Canon RF50mm F1.8 STM」というレンズです。

レンズ名からも分かる通り、焦点距離は「50mm」固定であり、これ以上広くも遠くも撮影することはできません。撮影したい範囲を変えたいのであれば「撮影している自分の位置」を移動するしかありません。広く撮影したいのであれば後ろに下がり、被写体を強調したいのであれば近づく必要があります。

「ズームできないなんて不便では?」と思われる方も多いかと思われます。

確かにズームできないことによる不便さはあります。しかし、単焦点レンズはプロの間でもよく利用されるレンズで、単焦点レンズならではの大きなメリットも存在しています。「レンズ交換式カメラを持っているのならば単焦点レンズは1本持っておくべき」といわれることもあるくらい、実は重要なレンズなのです。

ボケを活かした撮影ができる

単焦点レンズ最大のメリットのひとつです。

単焦点レンズはズーム機構を持たない代わりに、レンズ構成をシンプルに設計できます。固定された焦点距離に最適化されるため、「非常に明るいレンズ」を作ることができます。

開放F値にして「F1.8」という数値のものも販売されており、F値が小さくなることでよりボケやすく(浅い被写界深度)、印象的な写真を撮影することができるようになります。

「Canon RF50mm F1.8 STM」で絞りを「F2.8」に設定し撮影。美しい背景ボケは単焦点レンズの醍醐味。

ズームレンズやスマートフォンのカメラ機能では絶対に撮影できない「美しいボケ味」が体験できるのが「単焦点レンズ」の魅力です。

小型軽量で安価

単焦点レンズはズーム機構を持たないため、ズームレンズと比較すると小型軽量化しやすく、また安価な商品も販売されています。

先ほどの「Canon RF50mm F1.8 STM」を例にすると、価格にして2万円と少し、重量はたったの「約160g」です。購入しやすい価格で、ちょっとしたお出かけでも持ち出しやすくなり、遠出の旅行でも苦にならない大きさと重量であるのはやはり魅力的です。

画質が良い

特定の焦点距離でレンズ設計を最適化するため、小型軽量、安価ながら「画質も良い」というメリットもあります。

色の滲み(色収差)や画像の歪曲(歪曲収差)が少なく、解像度も高めでキリッとした写真を撮りやすいのが単焦点レンズです。云十万円するズームレンズと数万円の単焦点レンズとを比べても、同等かそれ以上の画質を得られます。

手軽に高画質を得たい場合に「単焦点レンズ」は大きな力を発揮します。

高画質化しやすいため、ただひたすら画質のみを追求して開発された単焦点レンズも販売されています。こちらは大型で重く、価格も30万円前後と画質以外の要素は全部諦めていますが、開発企業の技術の粋を集め、究極の美しさを追求したレンズとなっています。

左が「Canon RF50mm F1.2 L USM」、右が「Canon RF50mm F1.8 STM」。同じ50mmの単焦点レンズですが、「F1.2」と非常に明るいレンズの方は大きさも重さも価格も桁違いの、写りの良さを最優先にしたレンズです。

シャッタースピードを早くできる

単焦点レンズは明るいレンズが多く、ズームレンズと比べてF値を低く設定できます。開放でレンズから多くの光を取り込むことができるという意味でもあり、このことから単焦点レンズは「シャッタースピード」を早く指定しやすいメリットがあります。

F値を下げることができれば素早くシャッターを切れるため、「手ブレ」「被写体ブレ」などの発生を抑えられます。特に室内や夜景など暗いシーンでは、カメラ側でなんとか光量を確保しようとシャッタースピードを自動でゆっくりにしてしまいがちで、これがブレの原因になってしまいます。単焦点レンズはF値を下げて絞り開放にし光量を多くすることが容易なので、F値を調整してブレが起きないシャッタースピードを確保することができます。

夜のスナップや夜景などを撮影したい場合には、単焦点レンズの方が適している場面も多いでしょう。ただ、開放にすると背景がボケやすくなるので(浅い被写界深度)、実際はボケ量も考えながら調整します。

一応の目安として、普通に歩いている人をピタッと止める(被写体ブレがない)状態にするには、「1/500 秒前後」のシャッタースピードを確保する必要があると言われています。

夕暮れ時で周囲が暗くなり、シャッタースピードが1/10秒にまで遅くなってブレた写真。これでは写真として残念な気分になりますので、F値を下げて開放にするか、ISO感度を上げてしっかりシャッタースピードを早くしたいところ。

構図の勉強になる

単焦点レンズ自体に画角を変化させる機能が無いことから、撮影範囲を変えるには「撮影者自身が移動する」必要があります。

撮影したい被写体に向かって「離れて撮影したいのか」「近くに寄せて撮影したいのか」「右からか、左からか」「上から見下げるのか、下から見上げるのか」「光はどのように入れるのか」「順光か、逆光か」「背景の情報はどこまで入れるか」など様々なことを考えるきっかけになります。

また、被写体と背景の距離感や、距離とボケの関係性なども体感で身につきやすいので、写真の表現や構図力が磨かれていくと思います。

私も単焦点レンズは昔からお世話になっていて、当園のばらの写真もいくつかは単焦点レンズで撮影しています。

単焦点レンズはよく撮影する焦点距離を考えて選ぼう

単焦点レンズは焦点距離が固定となることから、後で焦点距離を変えようということはできません。

このため、購入前に「自分はどれくらいの焦点距離(画角)で撮影していることが多いのか」を一旦よく考えてみられるのがおすすめです。

ズームレンズで何枚か撮影した後、焦点距離を確認してみましょう。広く撮っていることが多ければ広角(24~35mm前後)の単焦点レンズを、標準域で撮っていることが多ければ標準の画角(50mm前後)のものを、少し望遠気味で撮っていることが多ければ中望遠側(85mm以上)の単焦点レンズを選んでみてください。

あるいは、ズームレンズを「ズームせずに固定」させて試しに撮影してみる方法もあります。たとえば、ズームレンズでも焦点距離50mmで固定させれば、50mm単焦点レンズと画角は同じになります。

※焦点距離はフルサイズ換算を基準にしています。APS-Cの方は1/1.5倍、マイクロフォーサーズの方は1/2倍に換算してください。
例:50mmの画角を得たい場合、APS-Cの方は30~35mm、マイクロフォーサーズの方は25mmのレンズを選びます。

よく分からない場合は「50mm」がおすすめ

まだよくわかならいけど取りあえず単焦点レンズが1本ほしい場合は、標準画角である「50mm」の単焦点レンズから始めてみられるのがおすすめです。

「50mm」は人が目の前を軽く集中して見た時の画角とほぼ同等であることが知られており、レンズ焦点距離の基準になるものでもあります。人の目で見た遠近感と同じ印象で撮影できるため、シンプルで自然な撮影がしやすいメリットがあります。

少し下がれば広く撮影できますし、あるいは被写体からの距離と背景の距離感を調整すれば圧縮効果を狙った撮影もできるなど、ある意味「万能」な焦点距離ともいえます。また50mmの単焦点レンズは様々な基準となることから各社多くのラインナップがあり、安価なレンズも販売されていますので入手しやすいのも嬉しい利点です。

50mmは意外にも広く撮影できますので、風景写真にも使えます。
50mmは近づけば被写体を引きつけた写真も撮影できます。
50mmは背景との距離感を調整すれば奥行きを感じられる表現も可能です。

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